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※曲目のデータなどは、ナンシー・B・ライク著「クララ・シューマン、女の愛と芸術の生涯・高野茂 訳」
 をベースに作成し、手持ちのCDの解説を参考にして補填しました。

ロマンス・ヴァリエ 作品3
ROMANCE varie' pour le Piano
(ピアノの為のロマンスと変奏〜初版の表題に記されたタイトル)

これはクララの象徴であり分身ともいえる曲です。ローベルトもヨハネス・ブラームスも、そしてクララ自身もがこの曲をクララの分身と認め、終生こよなく愛した曲なのです。

Jozef de BeenhouwerのCD解説の所で書きましたが、私はこの曲を初めて聴いた瞬間、突然スピーカーの真ん中に可愛いらしい女性が浮かび上がり、話をしたり、駆け出したり、鬼子っ子をしたりしたので金縛りになりました。残念ながらJozef de BeenhouwerのCDはもはや入手不能であり(注;2001年8月にCPOから再発売になりました)、もう一枚のCD、Veronica Jochum盤も海外発注しなければ買えないなど作品3の演奏に触れることは難しく、音ではなかなか私の感動を伝えることが出来ません。そこで幾つかの譜例と共に、楽しげに話すクララ、駆け出すクララ、鬼子っ子を始めたクララなどを例示してみようと思います。楽譜を読める方なら理解頂けるかもしれません。この解説はちょっと画像データが重くなるので別ページに用意しました。

さて、作品3が作曲された1833年ごろはクララとローベルトの間に愛が芽生え、お互いに掛け替えのない異性になった時期で、作品3には少女から女性に急速に変貌しつつあるクララの姿が生き生きと描かれています。その頃のクララ、そしてクララとローベルトの感情を語る手紙や出来事についてまず挙げておきたいと思います。

1832年11月 ツヴァイカウのシューマン家において

ローベルトの母とクララが窓際で話をしていると、ローベルトがその下を通りかかってふたりに会釈したことがありました。その時にローベルトの母は不思議な感情にかられて、側にいた少女を我が胸に暖かく引き寄せて「いつかローベルトと結婚してくださいね」と静かにささやきました。

(この時の出来事はクララに深い印象を残し、後年でもその日の事を鮮やかに思い出せたとの事です。この出来事がクララにとっての愛の兆しだったかも知れません

1833年6月 ローベルトからローベルトの母への手紙
クララは以前のように大変僕になついています。まだ子供のように奔放で、気まぐれに急に駆け出したり、飛び跳ねたり、遊んだりしますが、思いがけないときに素晴らしく深い思慮と英知をもって語ります。彼女の心と胸に満ち溢れるものが、いわば花びらの一枚が開く毎にますます早く表出されるのを見守ることは、僕に大きな喜びを与えます。先日コネウイッツからの帰りに(我々は毎日二〜三時間一緒に散歩します)彼女が「なんて私は幸福なのかしら」と繰り返し繰り返しひとりで自分に言っているのを聞いてしまいました。この彼女の言葉を聞きたくないものがあるでしょうか?

(下線を弾いた部分は当時のクララの姿を語っていますが、私はこの文章がそのまま作品3を語っているように思えます。私がこの文章に出会ったのは作品3を初めて聴いてから一年以上も経っての事ですが、その時にスピーカーの間に現われた可愛らしい女性が若きクララであることを確信しました。)

1833年7月13日 ローベルトからクララへの手紙
実はお願いが有ります。私たちふたりをお互いにつなぎ、まだ思い出させる電力のようなものも今は有りませんから、僕が一つよい工夫をしたのです。
僕は明日11時の鐘がなると共にショパンの変奏曲の中のアダージョを弾きながら強くあなたを思い、あなたに心を集中します。お願いというのは我々の霊魂が逢えるように、あなたにも同じ事ををして欲しいのです。我々の分身が出会う場所は、きっとトーマス教会の小門のあたりでしょう。もし満月が現われたら我々の望みが叶ったと認めることにしましょう。

(この時にローベルトの愛情は確かなものとなったのでしょう)

1833年7月13日 クララからの返事
お願いは承知しました。明日の11時には私もトーマス教会の小門のところにまいります。
私は私の分身の曲を完成させました。その中で第三の分身を作りました。残念ですが今はやらなければならないことが沢山あって、長いお手紙を書くことが出来ません。

(クララはローベルトの愛情に応えたばかりではなく、恐らくは作品3の事を「私の分身」と語っていると思われます。つまり作品3はクララにとっても自分自身の投影だったのではないでしょうか)

1833年8月1日 作品3(ローベルトに献呈)に添えられたクララからローベルトへの手紙
私は同封したつまらない作品をあなたに捧げたことをとても後悔し、またこの変奏曲が印刷されないようにと強く願ったのですが、もう悪いことが起こってしまった以上、どうすることもできません。だから同封のものをあなたに許していただくしかありませんわ。このちっぽけな楽想をあなたが巧みに作曲してくだされば、私の側の過ちも償われようというものです。そうして頂けないかしら。早くその曲を弾いてみたくてたまりませんわ。

(ここでクララはローベルトに作品5の完成を依頼しています。クララが自分の作品を卑下するのは彼女のいつもの性癖で、作品の出来に対しては自信があったそうです)

1833年8月2日 作品3献呈に対するローベルトからの礼状
心からお礼というより、僕からは何も差し上げるものがありません。もしあなたがここにいらしたら、あなたと握手をして(たとえお父様のお許しがなくても)表紙にふたりの名前が共に記されたことが、将来ふたりの意見と理想が一致することの予言でありたいと願う希望について、すこしばかりお話したかったのです。

(ローベルトがふたりの将来(結婚)を暗示しています。つまり作品3はふたりの出発点となりました

1833年8月17日
ローベルトの「クララ・ヴィークの主題による即興曲」完成。その日が誕生日のフリードリッヒ・ヴィーク(クララの父)に献呈。
この様に作品3を取り巻く状況は とまとめられると思います。作品3はその後苦難の道を歩むふたりにとって、若さと栄光と希望に満ちた日々の想い出となり、若きクララの象徴として愛されたのだと推測されます。作品3の主題が引用された曲は以下の通りです。 さて、曲の内容ですが5小節の序奏を経て主題が提示され、それがかなり自由奔放な形で変奏されてゆきます。全体的には可愛らしいメロディに満ち溢れ、二回のカデンツァがある為か相当に奔放な感じもします。しかし時々大人っぽい陰影ある響きも顔をのぞかせるという、変化に富んだ佳品です。

詳細は別ページの譜例解説(画像データがちょっと重いです)をご覧下さい。
 

(1999.8.12.)

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