二十歳台の男を夫に選ぼうとしないある花嫁に
花嫁は二十過ぎ 花婿は三十過ぎ
若枝も 枯れ枝となり
婚約時代は はや五年
まもなく二人は棺桶入り
月桂冠が この女流芸術家には
良く似合う
ミルテの花冠が この娘には
良く似合う
われには 素晴らしい花嫁あり
その目を見しものは
婦女の貞節を信ずるなり
貞節あれば悔いはなし
かのエグモントの恋人の名はクレールヒェン・・・
ああ このうえもなくすばらしき名
クレールヒェン・シューマンとは
天使の名づけし名
離れ離れの二人
天空の、二つの星のごとし
前後して 後を追いつつ
夜も そして昼も
クラーラという名 わが名を飾るべし
われらがともに 楽の音を奏でれば
天上の天使も 心を動かされるべし
われらのごとき 深き愛を
この世のはてまで 探してもみよ
乙女 喜びのとき
われを 悲しませりと
信ずるなり
われら、悩みしときは 多かりき
悩みの種は 数知れず
かたい葉叢(はむら)の ただなかに
アナナスの花 咲きいでたり
乙女 われを待たせて 久しく
わがよろこびの日は いまだ来ず
長き貞節 守りぬかば
ミルテの花は 倍して飾られる
されど 待つ時の 長ければ
わが心は 不安に駆られ
心は老い
人も 冷たくなりにける
フローレスターンが怒りなば
オイゼービウスにこそ 頼れ
フローレスターンのたけだけしさと
オイゼービウスの優しさを
そして涙と炎さえ
ともに 受け入れよ
わが心中の
苦しみと よろこびも!
フローレスターンは 嫉妬深き男
オイゼービウスは 疑いをもたぬ人
心より 夫婦契りのくちづけを与えたきはだれ
きみと、自身に もっとも貞節なもの
きみが スリッパをふりかざし
二人して相争うとき
勝つのは たれぞ
負けるは たれぞ
しかるのち われらは きみを
寛大にも 王座につけん
われらは右と左に 控えん
きみ右の一人を 追放せんとせば
左の一人にも 同じことを命ずるか
きみの心を のぞきしことの よくありき
しかして きみがまなざしに 幸せを見き
この胸に きみが見しものは
鏡に映るがごとき きみ自身では?
されど わが心中を打ち明くれば
きみの見しものは 暗き想念
重苦しき 悲しきものおもいならん・・・
されど 問うなかれ! 信じ 愛せよ!
きみにもたれ
きみが胸に やすらわん
されば きみは言わん
神の作りし もっとも情愛深きものは
よき夫なりと
あまりにうわべだけを とらえずに
かつ 細かきこと言わず
急ぎにすぎず 遅きにすぎず
かかる妻をば 望むなり
暖炉で 薪の燃える音のする
日暮どき
心のなかで ささやく声のする
花嫁よ いつ来るらんと
きみ まだ幼少でありし折
われ夜 幽霊の姿にて
きみが部屋を 訪れしことも よくありき
われとは知らず 悲鳴を挙げしきみ
ああ このいまも幽霊となりて
きみを訪れに行きたし
されば きみわれを認め ささやかん
「変装したる わがいとしき花婿よ
なによりもまず くちづけを」
謎かけ合いしことも よくありき
されど われら二人に
思い浮かばざりしは
都市のなかの都市
ROMAの逆さ読みの意味なりき
しばし われらが間に位した
さかさまの町 ROMAにて
柔らかき 唇の橋の上にて
くちづけの使節を 交わさん
きみ かつてガチョウをアヒルとまちがえし
いまはなつかしき こぞの思い出
「心憎き人 忘れませ
こぞのことは!」
「いかぞ たまさかに幸せに満ちしときを
記憶のなかに 甦らせん!」
くちづけを 優しき花嫁
いまひとたび 言わんとぞ願う
「天の契りは 地の契りと」
ともに生き ともに死なん
そは きみに会いしわが最後の言葉なりし
そは この世の別れの如くあり・・・
きみ したわしき眼にて われを見・・・
ただひたすらに・・・
ともに生き ともに死なん
ああ 至福に満ちし言葉
いつの日か きみ死なば、もろともに
暗き冥界へと 降りてゆかん
さらば、きみ 黄泉の国の人となりて
神の御姿を
罪に悩みしわれに 示すらん
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