クララ・ヴィーク
クララ・ヴィーク(子役)
ローベルト・シューマン
フリードリッヒ・ヴィーク
フェリックス・メンデルスゾーン
ニコロ・パガニーニ
脚本/監督
音楽演奏
ピアノ
ヴァイオリン
バリトン
指揮 |
ナスターシャ・キンスキー
アニヤ=クリスティーネ・プロイスラー
ヘルベルト・グリューネマイヤー
ロルフ・ホッペ
アンドレ・ヘラー
ギドン・クレメール
ペーター・シャモニー
ヴィルヘルム・ケンプ
イーヴォ・ポゴレリッチ
ギドン・クレメール
ディートリッヒ・
フィッシャー・ディスカウ
ヴォルフガング・サヴァリッシュ |
1982年、西ドイツ、東ドイツ合作
発売元:大映株式会社・映像事業部
ビデオ番号:MVH-0006 9,800円
100分
原題はFluhrings Sinfonie「春の交響曲」です。この映画の中でトロイメライはホンのわずか演奏されるだけの重要な地位を占めない曲なので、「哀愁のトロイメライ」よりも「春の交響曲」という題を念頭において見た方が良いと思います。
この映画は「愛の調べ」とは逆に歴史にできるだけ忠実に作られています。最大の見どころは当時そのままに見事に再現された衣装、調度品、街景色、そしてピアノです。映画の中で弾かれるピアノは1830年頃のものそのままで、現代ピアノに比べると響きが余りなく、聴き慣れない人にはひどく音質の悪いピアノに聞こえてしまいます。しかしこれが若きクララの生きた時代の響きそのものなのです。登場人物はもちろんドイツ語を話しますので、クララが生きた時代の景色の中にタイムトリップできます。また登場人物の性格、行動についても影の面(ローベルトの女遊び癖とか)を含めて描写されているので、見ていてとてもリアリティがあります。
一方で歴史に忠実であろうとしたために、映画全体を司るストーリー性が希薄という感は否めません。シューマンの伝記を数冊読破しているような人なら個々のシーンや台詞の意味も分るでしょうが、そうではない多数派の人には突然に断片的に出てくるシーンや台詞の意味や、現在演じられている事柄、その前後のつながりなどが把握しにくいと思います。映画を見ながら伝記の内容をフラッシュバック出来るような上級シューマニアーナ向けの作品と言えましょう。
エンディングも苦難の道を経て結婚を成し遂げ、映画の原題となった交響曲「春」の初演シーン(史実どおりメンデルスゾーンの指揮)で終わるのですが、それがハッピーエンドではないのです。ローベルトの作曲の仕事の影でピアノの練習が出来ないクララの不満に満ちた顔で映画が終わります。これは事実の一部ですが、シューマン夫妻の新婚生活の一側面に過ぎません。そのネガティブな側面にだけスポットをあてて映画の幕を下ろすので、誰もが「え?これでおしまい?」と疑問を持つエンディングになっています。
「あらすじ」
映画はクレメール演じるパガニーニのコンサートシーンから始まります。史実に沿うなら1830年の復活祭の日曜日、ローベルト19才、クララ10才の時です。彼の演奏を見て、ローベルトはピアノのパガニーニになるぞ!と決心し、法律家の道を捨ててフリードリッヒ・ヴィーク(クララの父)に弟子入りします。その後ローベルトは無理なピアノの練習がたたってピアニストの道を諦め作曲家への道を歩み始めますが、世間の理解できない斬新な曲ばかり作曲するので収入に恵まれません。一方のクララ(当初は子役が演じています)の方は次々に演奏会を成功させてゆき、天才少女ピアニストとしての名声を確立して行きます。そしてクララとローベルトの仲も徐々に高まって行きます。
クララがツヴァイカウに演奏旅行した時に(この頃からクララ役はナスターシャ・キンスキーに代わります)演奏会に来ていたフリッケン男爵とヴィークの間で、男爵の若き娘であるエルネスティーネのヴィーク家への弟子入りが決まります。エルネスティーネが来るとローベルトは彼女に惹かれてゆきます。...当然ながらクララは不機嫌...やがてふたりの仲は結婚直前まで行きますが、エルネスティーネの母がローベルトの母に、結婚後の無用なトラブルを避けるために、エルネスティーネがフリッケン家の生まれではなく養女であること、そして結婚しても財産を相続する権利の無い事を告げます。(この結果ローベルトとエルネスティーネの仲は終わった様ですが、映画の中ではその場面がありません。伝記の多くはエルネスティーネの養女(非嫡出子)問題が婚約破棄の原因のひとつとしています)。
その後ローベルトはクララの16才の誕生日にクララに首飾りを贈り、初めてのキスをします。そして別の日にもピアノの稽古をしているクララにローベルトはエルネスティーネとの関係が無くなった事を告げて二度目のキス。二人の仲はこの時に固い絆で結ばれました。
一方でこの頃からメンデルスゾーンとの親交が始まります。既に成功しているメンデルスゾーンはシューマンに「大作を作れ」と薦めます。当時交響曲を作曲することが作曲家として認められるための条件でした。
後日クララはドレスデンに演奏旅行に出掛けますが、そのクララを突然にローベルトが訪問します。部屋に迎え入れられたローベルトはピアノソナタ第1番のスコアを手にして「君を求める僕の心の叫びだ」という言葉と共に「母が亡くなった。もう君しかいない」とクララに告げます。そして二人は愛し合います。
その事を知ったヴィークは激怒、ローベルトとの交際を一切禁止します。その後ふたりは友人などの援助を得ながらヴィークの目を避けて密かに会い、愛を深めて行きます。その一方でローベルトからヴィークへの度重なるクララとの結婚承諾を求める努力も全て無駄に終わり、クララがパリに旅立つ前に二人は一大決心をします。
ヴィークから初めて父(つまり良きマネージャー)抜きでパリに追いやられたクララは、下手くそな楽団、マナーを知らないサロンの聴衆などに苦労し演奏旅行は失敗に終わります。失意の内にパリに戻ったクララはローベルトと共に結婚承諾を求める裁判に臨みます。裁判ではヴィークがローベルトが所帯を持つに値しない男であるとあらゆる申し立てをしますが、結果はローベルトとクララの勝訴に終わり、「献呈」の流れる中で結婚式を挙げます。
場面は変わり、新居でローベルトはメンデルスゾーンと共に新作の交響曲の作曲に没頭します。ローベルトは力強く「交響曲の名前が決まったよ。”春のシンフォニー”」とクララに告げますが、狭い家の中で夫の仕事中はピアノを弾くことが出来ないクララは浮かない顔で応えるだけでした。そして散歩に出てしまいます。
春の交響曲はメンデルスゾーンの指揮で初演されました。それを聴くクララの表情はしかし暗い物でした。そんなクララを見てローベルトは「家がもっと大きいといいが..」とつぶやいて、映画は終わります。
この映画はシューマンの歴史をある程度良く研究して作られています。特に衣装などの時代考証には力が入っています。しかしストーリーとしては消化不良の面があるのと、大筋において歴史に忠実とはいえ厳密では無い点に不満の残る映画です。クララが二度目のキスの時に「私の作曲よ」と言って弾く曲は自作ではなく「シューマン・ピアノソナタ第三番第三楽章」であったりします。ファーストキスは実際には16才の誕生日ではありませんし、それ以外にも歴史とのズレが多数散見されます。
このビデオは2004年5月7日にDVDで再発売されました。→こちら |