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※曲目のデータなどは、ナンシー・B・ライク著「クララ・シューマン、女の愛と芸術の生涯・高野茂 訳」をベースに作成し、手持ちのCD及び「クララ・シューマンピアノ曲集 森潤子校訂、音楽之友社」の解説を参考にして補填しました。
3つのロマンス 作品21
Drei ROMANZEN fur Pianoforte
(ピアノの為の3つのロマンス〜初版の表題に記されたタイトル。furのuにはウムラウトがあります)
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第一曲;Andante in A minor
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第二曲;Allegretto in F major
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第三曲;Agitato in G minor
作曲年;1853年6月(33才)
初演;不明
出版年;1855年または1856年(34〜36才)
献呈者;第一曲はローベルト・シューマン、作品21全体はヨハネス・ブラームス
ローベルト・シューマン・ハウスにある第一曲の自筆譜には「愛する夫へ、1853年6月8日」というローベルト・シューマン宛の書き込みが有ります。ヴィーン楽友協会にある第一曲の楽譜には「愛する友ヨハネスへ、1855年4月2日作曲」と書き込まれています。この日付の矛盾は謎です。東ベルリンのドイツ国立図書館の第二曲、第三曲の楽譜にはそれぞれ「1853年6月25日」「1853年6月27日」という日付が記されています。
自筆譜の所在;第一曲はローベルト・シューマン・ハウス(ドイツ・ツヴァイカウ)、全曲は東ベルリンのドイツ国立図書館
演奏時間; 第一曲;4'11" 、第二曲;1'09" 、第三曲;4'02" 、合計9'22" (Cristina
Ortiz盤)
1853年6月に4つのロマンスが作曲されました。そのうちの3つがこの作品21で、残りの一つがロマンス・イ短調(作品番号無し)です。第一曲Andanteは1853年のローベルトの誕生日に、作品20と共に夫に贈られたようです。しかし作品21全体は出版の際にヨハネス・ブラームスに贈られました。ブラームスは1853年9月末にシューマン家を訪れてからシューマン夫妻との親交を深めてゆきました。そして1854年2月のローベルトのライン川への投身自殺未遂、それに続くヘンデニッヒの精神病院への入院という悲劇と苦境の中で、ブラームスはシューマン家、そしてクララを支える大切な友人となっていったのです。その様な状況にあった1855〜56年にこの曲はブラームスに献呈されています。
この作品はクララの後期作品としての特徴を多く備えています。苦しみも悲しみを知り尽くした大人の女性、クララの感情の発露が端々に見られます。また夫ローベルトの影響も大きく、いわゆるシューマネスクな世界も垣間見られます。
単なる偶然なのでしょうが、イ短調、ヘ長調、ト短調という配列は音楽夜会作品6の冒頭三曲と同じです。クララの好きな配列なのでしょうか?
第一曲;Andante in A minor 曲の冒頭は何とも悲しいゆっくりとした和音のメロディ。涙にくれる女性が、壁につかまり、よろめきながら歩くようなメロディです。中間部はヘ長調にかわり、明るいテンポになって語らいを始めたような雰囲気になりますが、そこは大人のクララ。時に悲しげに、時に意味深げに陰影深い和音によるメロディで綴られて行きます。最後はまたイ短調の冒頭のメロディに戻り、最後に消え入るような和音で曲を終えます。
第一曲;Andante in A minor冒頭部分譜例
森潤子校訂 クララ・シューマンピアノ曲集(音楽之友社)より
第二曲;Allegretto in F major 静かにスキップするような、軽やかな和音で綴られた小品です。明るい朝の少し冷んやりとした空気の中での親しい人との語らい、と言った雰囲気の1分少々の曲です。
第三曲;Agitato in G minor 小刻みに揺れる一本のメロディライン。揺れる女心でしょうか。やるせないような心の動きを音にしたようです。その複雑に曲がり、絡み合った糸のような右手のメロディラインに、左手の悲しげな和音の伴奏が寄り添います。中間部はト長調にかわり、一転して縦の和音を際立たせたメロディになります。時に明るく、しかし時に寂しげに。第一曲の中間部同様に深い陰影を持った長調の中間部です。最後はまた揺れる女心の絡み合ったようなメロディにもどり、曲を終えます。
第三曲;Agitato in G minor冒頭部分譜例
森潤子校訂 クララ・シューマンピアノ曲集(音楽之友社)より
この作品21について、前田昭雄先生がHelene Boschi盤で解説をしていますので、全文をご紹介します。
第一曲;イ短調 うっすらとハンガリア調の霧が流れる哀愁のロマンス。第二フレーズの明るみはシューマネスクに、その後の陰りはブラームスの深度も帯びて。30代なかばをこえるクララの成熟した感覚。
第二曲;ヘ短調(原文通り。実際はヘ長調) かるやかなスケルッツォ。パステルカラーの光の揺曳。優美なユーモア。幻想が描き出した、弾む響きのひととき。
第三曲;ト短調 憂愁が回帰する。踊りは続くのだが。リズムは流れても、憂いの霧は晴れないで。音楽は内向的な情熱を含みながら、燃えず溢れず、流れ了せる。
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