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※曲目のデータなどは、Nancy B. Reich, "Clara Schumann, The Artist and The Woman" 2001 Revised Edition を参考に作成しました。
即興曲・ホ長調(作品番号無し)
Impromptu (即興曲〜初版表題に記されたタイトル。)
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作曲年;1844年頃(24才)
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初演;不明
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出版年;1885年(66才) Paris, Album du Gaulois 1885
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献呈者;なし
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自筆譜の所在;紛失
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演奏時間; 2'18" (Josef de Beenhouwer 盤)
この曲は1844年頃に作曲されました。
ローベルトは1845年1月9日にブライトコプフ・ウント・ヘルテル社に手紙を出し、この頃に作曲されたクララの三つの曲を出版するように依頼しましたが、スケルツォ・作品14と四つの束の間の小品・作品15のみが出版されて、何故か即興曲は出版されませんでした。それから40年の月日を経た1885年になってやっと、この曲は出版されています。
1840年代前半は新婚時代でありクララが最も幸福な時期でした。その中で作曲された「四つの束の間の小品・作品15」はクララの曲の中でも最も美しい、幸福感に満ち溢れた曲ですが、この「即興曲・ホ長調」もまた、幸福と希望、そして若きクララらしい優しさと繊細さに満ちた美しい曲です。残念ながらこの曲に関する資料は殆ど残されておらず、作曲の背景などは分りません。私が頼りにしているナンシー・B・ライクの「Clara Schumann, The Artist and The Woman」でもこの曲については数行の記述しかありません。
従ってここから先は私の耳による想像になりますが、メンデルスゾーンの無言歌、その中でも特に有名な「春の歌」に触発されてクララが作曲したものではないかと考えています。「春の歌」とクララの「即興曲」を聴き比べると、曲の規模やスタイル、音階進行に近似性を感じるからです。メンデルスゾーン家とシューマン家は親密な関係にありましたが、「春の歌」を含むメンデルスゾーンの無言歌集第五巻・作品62は1842〜44年の間に作曲され、1844年にクララ・シューマンに献呈されました。クララは1844年前半にロシアに演奏旅行に行っていますが、聖ペテルスブルグでは皇帝の御前で「春の歌」を三回繰り返し演奏したとの記録も残っていますので、彼女は「春の歌」をとても気に入っていたようです。
「春の歌」がクララに贈られた時期と「即興曲」の作曲時期の見事な一致、楽想や雰囲気の近似性、クララがメンデルスゾーンをこよなく尊敬していたという史実から、クララ版の「春の歌」としてこの即興曲が作曲されたのだろうと考えています。
曲は演奏時間2分ほどの小品で、全曲にわたり幸福感に満ちた明るいメロディで溢れています。喜び一杯の少女が柔らかな光の中で、フリルのついたスカートをひるがえしながら踊るような、キラキラとした雰囲気の音楽です。
Impromptuの冒頭部分
Keyboard Classics, The Magazine You Can Play vol.5/No.5
September/October 1985 から引用
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