ホームに戻る 所有CDリストに戻る 手前のCD解説 次のCD解説
|
Beaux Arts Trio Philips Recording 1967-1974
|
Beaux Arts Trio
|
レーベル;Philips |
入手性;輸入現行盤 |
CD番号;475 171-2 |
お気に入り度;★★ |
録音年月日;1967年2月〜1974年5月 録音;ADD |
資料的貴重度;★ |
収録時間;81分15秒+79分58秒+71分06秒+75分46秒 |
音質 ;★★ |
収録曲
CD1
-
フェリックス・メンデルスゾーン:ピアノトリオ第一番二短調・作品49 (録音1967/2)
-
フェリックス・メンデルスゾーン:ピアノトリオ第二番ハ短調・作品66 (録音1967/2)
-
ローベルト・シューマン:ピアノトリオ第三番ト短調・作品110 (録音1971/8)
CD2
-
ローベルト・シューマン:ピアノトリオ第一番二短調・作品63 (録音1971/8)
-
ローベルト・シューマン:ピアノトリオ第二番へ長調・作品80 (録音1971/8)
-
クララ・シューマン:ピアノトリオ ト短調・作品17 (録音1971/8)
CD3
-
フレデリック・ショパン:ピアノトリオ・ト短調・作品8 (録音1970/8)
-
ピョートル・チャイコフスキー:ピアノトリオ・イ短調・作品50 (録音1970/8)
CD4
-
ベドジフ・スメタナ:ピアノトリオ・ト短調・作品15 (録音1970/8)
-
チャールズ・アイヴェス:ピアノトリオ (録音1974/5)
-
ドミートリイ・ショスタコーヴィチ:ピアノトリオ第二番・作品67 (録音1974/5)
コメント
ボザールトリオは1955年に結成された米国の有名なトリオで、フィリップスを中心に多数のCDがリリースされているので、御存知の方も多いでしょう。これは結成50周年の諸活動(2004-2005年)を前に2003年末に発売されたCDの様です。タイトル通り1967年から1974年の比較的初期の録音が収録されています。
私がCDを聴く際には、精々曲目だけを確認して、それ以外の事前知識無しで演奏に耳を傾けます。そして何度か聴き通した後で演奏が楽しめた順に曲の作曲家を並べると、
メンデルスゾーン>チャイコフスキー>ショパン≒スメタナ>シューマン(ローベルト)≒クララ
の順でした。不協和音満載の現代音楽は好みではないので、ショスタコーヴィッチとアイヴェスは評価外にしています。トップになったメンデルスゾーンは比較的芳醇な楽器の音色と共に推進力を持って演奏されていて、まずまず良かったです。でもそれ以外の曲は淡泊というか、事務的というか、演奏が心に染み入ってきません。もちろん一流とされるトリオによる演奏なのでミスタッチとか、ぎこちなさとかの技術的な問題は皆無で、いかなる音も迷い無く出てきていますが、ほとばしる情熱とか深い哀愁とかが香ってこないのです。録音されている楽器の音色が平凡であることもひとつの要因ではありますが、演奏自体も教科書的で、曲に対する深い共感から生まれる演奏者内部の感情の発露のようなものが感じられません。
改めて録音データを確認したら、メンデルスゾーンのトリオが最も古い1967年の録音で、メンバー全員がトリオ結成当時の人達でした(ヴァイオリニストはダニエル・ジレ)。それ以外の曲はヴァイオリニストがイシドア・コーエンに代わっていて、商業的にも大成功を収めている時期の録音ですから、ある意味でトリオの音楽の味が変わってしまったのかも知れません。また高く評価したメンデルスゾーンのトリオのCDを私は他に4〜5種類持っていますが、より芳醇で楽しめる演奏があるのも事実です。
この解説を書く為に演奏の特徴を掴むべく、総演奏時間が5時間を超えるこのCDばかり3週間ぐらい毎日聴いていましたが、的確なイメージワードが掴めません。時間と共に「この演奏でもまあ良いか」と思えるぐらいに耳が慣れてきた頃に、別の室内楽のCDを購入したので聴いた所、遥かにニュアンスに富んだ演奏になっていて(こちらが通常の水準なんですが)、やっぱりボザールトリオの演奏はオカシイと思うに至りました。その原因を明らかにしたくて、クララのピアノトリオのリファレンスにしているゲリウストリオの曲と、ボザールトリオの曲をCDからPCにコピーしまして、楽章毎に交互に再生して聞き比べて見ました。
第一楽章、ゲリウストリオはゆったりとしたリズムで、ひとつひとつの音に情感を込めながら、芳醇なニュアンスで音楽を奏でて行きます。ヴァイオリンとチェロは弦楽器故に音を持続させながら変化を付けられますので、たったひとつの音に対してもビブラート、音量変化、微妙な弓遣いによって様々な表情を付加出来ます。その特質をフルに駆使して、お互いがお互いを思い遣りながら語り合うような、本当に豊かな音楽になっています。演奏時間は10分12秒。
対するボザールトリオは、超特急演奏。恐らくこれほど速い第一楽章の演奏は記憶にありません。まるでひとつひとつの音が嫌いな様で、捨て去るように先を急いで演奏してします。楽器の音が乾いていて響きが余り無く、奏者の方も音に殆どニュアンスを付けないことに加えて、中間部ではヴァイオリンがフレーズの第一音を怒ったかのような強奏で弾くので、聴いていて心地よくありませんし、美しさという概念とは違う世界に居るようです。演奏時間は7分14秒。
第二楽章、演奏時間に限れば4分47秒と4分59秒で両者大差ありません。実際に聞き比べても演奏テンポはほぼ同じです。しかし印象は全く異りまして、テンポが同じ分、二つのトリオの違いがより浮き立つ楽章になっています。ゲリウストリオはまず各楽器の響きがとても豊かです。しっとりとした、芳醇な琥珀色の音がします。ボザールトリオの楽器には響きが殆ど無く、また聴感上は音に濁点がついているような濁った響きを伴います。単純に録音の問題だけではなく、楽器そのものの音色からしてレベルが違い過ぎる印象です。 更に大きな違いは、奏者の態度で、ゲリウストリオは音符を奏でながらお互いに会話しているのが良く分ります。ピアノのちょっとした表情に応えて、ヴァイオリンやチェロの音色が微妙に変化するなど、楽譜上ではお互いにひとつの四分音符や八分音符を演奏しながら、絶えず有機的に結びついた、親友同志、恋人同士の様な語り合いがあります。対するボザールトリオの演奏には対話がありません。音符を演奏するのが義務、仕事であるかの様な印象で、奏者の心はこの面倒な仕事が終わった後の夕食のワインにでもあるようです。ですから各パートは機械的に、事務的に楽譜に書いてある音符を弾き進めて行きます。
第三、第四楽章は共にボザールトリオの方が二割ほど短い演奏時間になっていまして、印象の違いは概ね上記に書いたことの繰り返しになっています。またこの印象はクララのピアノトリオに限った事ではなく、他の曲に於ても殆ど同じです。
ボザールトリオ結成50周年記念のCDですが、私がこの演奏を聴いた印象ではこのトリオが50年以上も存在出来ている事の方が不思議です。これがメジャーレーベルのコマーシャリズムの威力なんでしょうか?
録音についてですが、古いアナログ録音なのでヒスノイズは大きめです。しかしリマスタリングの効果でしょうか、演奏が始まってしまえば全く気にならないレベルです。音質は、4枚のCD全体を通じて間接音が殆ど感じられず、まるで無響室で録音したかの様な乾いた印象なので良い点数は付けられません。
ホームに戻る 所有CDリストに戻る 手前のCD解説 次のCD解説
|