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PAVEL EGOROV WORKS FOR PIANO
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Pavel Egorov (Pf)
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レーベル;ARVELIN |
入手性;海外現行盤 |
CD番号;無し |
お気に入り度;★★ |
録音年月日;2007年 録音;DDD |
資料的貴重度;★ |
収録時間;CD1:78分20秒、CD2:79分40秒 |
音質 ;★★★★ |
収録曲
【CD-1】W.A.モーツアルト
- アンダンテ・ハ長調 K.1-a
- アレグロ・ハ長調 K.1-b
- アレグロ・ヘ長調 K.1-c
- メヌエット・ヘ長調 K.1-d
- メヌエット・ト長調 K.1-e
- メヌエット・ハ長調 K.1-f
- アレグロ・変ロ長調 K.3
- メヌエット・ヘ長調 K.4
- メヌエット・ヘ長調 K.5
- ピアノソナタ第10番・ハ長調 K.330
- ピアノソナタ第11番・イ長調 K.331
- 幻想曲・ニ短調 K.397
- ピアノ連弾ソナタ・ニ長調 K.381(123a) (Dmitry Elatantsev 2nd Pf)
【CD-2】クララ・シューマン
- 四つのポロネーズ・作品1
- 四つの性格的な小品・作品5から第3曲ロマンス、第4曲亡霊たちの踊り
- 音楽夜会・作品6から第2曲ノットゥルノ、第5曲マズルカ
- 三つのロマンス・作品11
- 三つのプレリュードとフーガ・作品16
- ローベルト・シューマンの主題による変奏曲・作品20
- 三つのロマンス・作品21から第1曲
コメント
このCDは限りなくプライベート盤に近いのか、収録曲名、奏者名、録音年、場所以外の記載が全くありません。ネット上の情報によれば、ピアニストのPavel Egorovは第六回ローベルト・シューマン・コンクール(1974)に優勝した後1975年にモスクワ音楽院を卒業したとありますので、現在50代後半から60ぐらいの年齢のようです。1980年からサンクトペテルスブルグ音楽院のピアノ科で教えていて、現在はピアノ科の主席教授だそうです。
クララの曲の演奏を一言で言えば、楽譜を無視して強引にピアニスト個人の個性を貼り付けた物で、このような演奏をするピアニストが著名音楽大学のピアノ科教授に収まっているとなると、未来が暗くなる気分です。
四つのポロネーズは唯一ピアニストの個性と私の感性が一致した演奏で、聴いていて「可愛い!」と思えました。楽譜に忠実ではありませんが、9歳のクララが嬉しそうにピアノを弾いている姿が浮かび上がるような、独特のテンポの変化とアクセントを加えた茶目っ気たっぷりの演奏です。9歳のクララから見ればお爺ちゃんぐらいの年齢のPAVELですから、ポロネーズに孫の姿を見出したのでしょうか。
四つの性格的小品の第3曲ロマンスは、ポロネーズとは逆に音の強弱、リズムの変化が少なめの淡泊な演奏で、ロマンスとしてのロマンティックな思い入れはあまり音に現れません。第4曲亡霊たちの踊りは、他のピアニストが音を鋭く刻んで悪魔的語法を再現するのに対して、スタッカートを無視したような比較的柔らかな音で紡ぎ、不気味さのない亡霊の宴会になっています。
音楽夜会の第2曲ノットゥルノは元気が良くテンポの変化が少ない淡泊な夜想曲ですが、曲の終わりになってやっとテンポを落とし、情感を込めています。第5曲マズルカは逆にテンポを落とし気味にし、細部の歌い回しにニュアンスを込めたロマンスの様なマズルカになっていて、このピアニストの演奏だと聴いていて曲名を誤解しそうです。
三つのロマンス・作品11、第1曲はこのピアニストとしてはニュアンスに富んだ標準的なテンポの演奏ですが、もっと深い陰影を持った演奏が他にあるのも事実。第2曲前半はテンポをとても遅くした演奏ですが、メロディラインがやや空中分解気味。中間部はテンポを早くしたり遅くしたり、柔らかく弾いたり強打したり、しかし効果を上げているとは思えず曲のまとめ方に迷いがあるようです。第3曲も第2曲に似て、テンポは遅く、変化は大きく、しかし総じて今まであまり聴いたことのないスタイルのクララのロマンスであり、恣意的な面が強く出過ぎて逆効果の様な印象です。
三つのプレリュードとフーガの第1曲プレリュードは、テンポがこの上もなく遅く、一つ一つの音の間に空白の時間が漂います。フーガは一転標準的なテンポに戻り、フーガらしさを味わえますが、他の演奏と比較すると各声部があまり混ざらず個別に自己主張するのが不思議なフーガです。第2曲プレリュードはロマンティックさのある標準的なテンポの演奏で、このCDの中では一番ノーマルに響く曲。フーガは第1曲に似てテンポは標準的ながら、各音符に軽いスタッカートをつけたような演奏をするので、各声部が独立して聞こえます。第3曲プレリュードはテンポを遅めにとっていますが、恣意的な部分が目立たず悪くない演奏になっています。
ローベルト・シューマンの主題による変奏曲・作品20は主題からテンポの遅い演奏で、続く第一変奏もメロディラインが空中分解寸前の遅い演奏。これは第二、第三、第四、特に第四変奏は市場最遅とも言える演奏で、標準の1/10のスローモーションで聴いているかのような印象です。第五演奏はテンポが戻りますが、逆に全ての音を強く打鍵して演奏するので、音が鼻につきます。第六変奏からは元のとても遅い演奏に戻り、全ての音が目の前で立ち止まるような、いい加減にしてくれと叫びたくなるような演奏です。最終変奏、クララのテーマとローベルトのテーマが交差する部分は、まるで足腰の悪い老夫婦がゆっくりと足を踏みしめながら歩く印象です。これほどに遅い演奏を聴くのは初めてでした。
ロマンス・作品21-1は元々がテンポのゆったりとした曲なので聴き始めの違和感は少ないですが、多少のテンポの揺れに加えて、柔らかな音の中に強い打鍵の音を混ぜるので興醒めしてしまいます。
モーツアルトの演奏については、私がモーツアルトを殆ど聴かないのでコメント出来ませんが、クララの曲とは違って普通にモーツアルト的に聞こえますので、恐らく他の人が聴いても大きな違和感を感じられないと思います。長年にわたり多数のピアニストが演奏し解釈してきた大作曲家の演奏と、解釈の確立していないマイナーな作曲家の作品で演奏スタイルを変えている様に思えます。
録音は概ねクリアで、音場の広がりも自然で問題ありません。
このCDの入手性は簡単ではありません。私は米国のamazon.comマーケットプレイスに出品していたフィンランドのCDショップから購入しました。インターネットで検索してもこのCDの情報があるのはそのショップだけです。
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