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THE WOMEN'S PHILHARMONIC
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JoAnn Falletta (cond.), Angela Cheng (Pf),
Gillian Benet (Harp), Women's Philharmonic Orch.
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レーベル;KOCH(USA) |
入手性;海外発注(本文参照) |
CD番号;3-7169-2H1 |
お気に入り度;★★★★★ |
録音年月日;1992年(?) 録音;DDD |
資料的貴重度;★★★★★ |
収録時間;65分17秒 |
音質 ;★★★★ |
収録曲
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ファニー・メンデルスゾーン=ヘンセル;序曲
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クララ・シューマン;ピアノ協奏曲・作品7
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ジェルメーヌ・タイユフェール;ハープ協奏曲
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リリ・ブランジェ;悲しい夕暮れに
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リリ・ブランジェ;春の朝に
コメント
ウーマンズフィルハーモニックは、サンフランシスコに拠点を置き、女性作曲家の曲の普及を目指して1980年に結成された、米国では唯一のオーケストラだそうです。
冒頭のファニー・メンデルスゾーンの「序曲」はこのCDでしか聴けない物でしょう。私の持っている他のCDには収録されていませんし、洋書を含めた数冊のファニーの資料にも掲載されていません。それもその筈で、CD解説書によればウーマンズフィルハーモニックの代表者の一人であるJudith
Rosenが、ベルリンのメンデルスゾーン・アーカイブからこの曲のスコアを借り出すことに成功し、加えてその演奏と録音の許可も得たのですが、それはファニーの死後初めての事であると書かれています。
このオーケストラ曲は、いわゆる男尊女卑的な評論家風に言えば「女性の作品」とは思えないほどにスケールが大きく、それでいてファニーならではの美しさに満ち溢れています。弟のフェリックスの交響曲「イタリア」や「スコットランド」を彷彿させる美しさで、オーケストラの響かせ方もフェリックス同様に作曲家として一級の物です。
ローベルトとクララのピアノ曲集で秀逸な音楽を聴かせてくれたアンジェラ・チェンによる、クララのピアノ協奏曲には大きな期待を寄せていました。それがこのCDを何年も待って入手した直接的な動機でもあります。その期待は大幅に超えて満たされました。クララが僅か13〜16才の頃に作曲されたこの曲は、客観的に見てオーケストラの響かせ方や、オーケストラとピアノの掛け合いがあまり上手ではなく、演奏効果の上げにくい物になっています。しかしアンジェラ・チェンとウーマンズ・フィルハーモニックによる演奏は、そんな欠点を高い音楽性で見事に克服して、聴いていて楽しい演奏になっています。これまでこの曲の録音は沢山ある物の、杉谷昭子さんの演奏が頭一つ抜け出した秀演といえる以外は、どれも今一つ決めてに欠ける演奏でした(故に太鼓判は杉谷さんのCDにしか付けていません)。この演奏は初めて杉谷さんのに匹敵し、あるいはそれ以上の名演と言えます。
第1楽章は標準的なテンポで始まります。しかし聴いていて他の演奏と明らかに異なる点があります。それは無造作に演奏するとオーケストラの各楽器の音、ピアノとオーケストラの響きが濁った感じに響くところを、強調すべき音と控える音をきっちりと区別して、結果的にそれぞれの瞬間に於て音楽の主役を務める音の存在感が極めてクリアに保たれていいる所です。この特質は曲全体に渡って保たれます。ピアノの音色は、ローベルトとクララのピアノ曲集で見せた極上の柔らかさとは少し異なり、しっかりとした芯のある物ですが、荒々しさは微塵も無く、一つ一つの音の粒立ちがクリアでとても美しく響いています。
第2楽章は少しゆったりとした演奏。冒頭のピアノ独奏部分は、アンジェラ・チェンならではの柔らかなピアニズムに耳を奪われます。やがて現れるチェロとの二重奏は、この曲全体の演奏のレベルの高さからすると小さな不満があります。それはチェロの音色があまり妖艶ではなく、演奏も少し乾いた感じで、存在感もピアノよりも弱くなってしまっています。本来このパートはピアノが伴奏にまわり、チェロが主役を務めるのですが、チェロの音楽性、音量共に脇役にまわってしまっています。
第3楽章も多少緩やかなテンポです。第1楽章同様に良くコントロールされたオーケストラの響きと、粒立ちの良いピアノの響きの掛け合いも素敵で、聴いていて飽きない演奏になっています。
タイユフェールのハープ協奏曲もとても美しい曲で、聴いていて惚れ惚れしてしまいます。タイユフェールはドイツロマン主義を否定したフランスの作曲家ですから、曲風はファニーやクララとは大幅に異なります。ハープの美しい音色に支配されるこの曲は、シェヘラザードの様なオリエンタル的な情景音楽という風情を持っています。曲を聴いていると、昔読んだアラビアンナイトの物語の場面が何となく思い起こされる、そんな曲です。
リリ・ブランジェの「悲しい夕暮れ」は、一転して暗い響きを持った曲です。彼女もフランス人作曲家ですから、クララやファニーとは異なり、印象派的な漂うような不協和音を特質としています。「春の朝に」は一見「悲しい夕暮れ」に連続する曲の様に聞えます。作曲年が同じなので、実際そうなのかも知れません。「悲しい夕暮れ」同様に暗い響きの、漂うような和音とメロディで、何となくやるせない心象風景を描いている曲です。
全体を通じて、このオーケストラの演奏の上手さが光るCDです。
このCDの入手性も不安定です。このCDも発売は古いのですが、長年にわたり入手不可能でした。前回解説したクララ・ヴィークトリオのCD同様に2001年末にやっと発注できたCDです。2002年4月現在でも、入手可能/不可能を短期間に繰り返すCDです。amazon.comをこま目にチェックして、入手可能な時に発注してください。
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