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Robert Schumann
Samtliche Werke fur Violine
und Pianoforte
Complete Works for Violin and Pianoforte
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Lisa Marie Landgraf (Vn), Tobias Koch (Pf)
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レーベル;GENUIN |
入手性;海外現行盤 |
CD番号;GEN 04043 |
お気に入り度;★★★ |
録音年月日;2004年4月5-5月22日 録音;DDD |
資料的貴重度;★★ |
収録時間;64分15秒+74分12秒+77分29秒 |
音質 ;★★★★ |
収録曲
(作曲家表記の無いものは、ローベルト・シューマンの曲です)
ディスク1
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幻想小曲集・作品73
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アダージョとアレグロ・作品70
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民謡風の5つの小品・作品102
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三つのロマンス・作品94
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おとぎの絵本・作品113
ディスク2
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ヴァイオリンソナタ第1番・作品105
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ヴァイオリンソナタ第2番・作品121
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ヴァイオリンソナタ第3番
ディスク3
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シューマン/ディートリッヒ/ブラームス:FAEソナタ(全曲)
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シューマン:ヴァイオリンとピアノの為の幻想曲・作品131
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バッハ:シャコンヌ(シューマンによるピアノ伴奏付き)
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パガニーニ:カプリース第10番(シューマンによるピアノ伴奏付き)
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クララ・シューマン:ヴァイオリンとピアノの為の三つのロマンス・作品22
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フェルディナンド・ダーフィット:ロマンス(ヴァイオリンとピアノの為の24の小品・作品30から)
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ヨーゼフ・ヨアヒム:ロマンス・ハ長調
コメント
このCDの第一の特徴は収録曲にあります。ローベルト・シューマンのヴァイオリンとピアノの曲の全集であればCD2枚で足りますが、3枚目のCDを追加して、滅多にお目にかかれないローベルトの曲と、クララと友人達の曲を併せて収録されています。ディスク3の冒頭のFAEソナタは他にも録音はありますが、シューマンが担当した二曲を用いて作曲し直したヴァイオリンソナタ第3番とFAEソナタの両方を収録したCDは、このCD以外には無いと思います。続く幻想曲・作品131は本来オーケストラとヴァイオリンで演奏される曲で、ピアノ伴奏の録音は私はこのCD以外に持っていません。バッハの無伴奏ヴァイオリンソナタとパルティータのピアノ伴奏版は全曲であれば勿論CD2枚で、既に2種類ほどの録音が存在しています。パガニーニのカプリースのピアノ伴奏版は全曲であればCD1枚使い切りますが、こちらも同様に既に2種類ほど録音が存在しています。どちらの曲も相当にマニアックなのでCDを持っている人は少ないでしょうし、入手も簡単ではありません。このCDには各々の曲から1曲づつ収録されていますので、超有名無伴奏ヴァイオリン曲のシューマンによるピアノ伴奏版というキワモノを味わう上で、このCDはうってつけだと思います。参考までにシューマンファンであり、無伴奏ファンでもある私の贔屓目によるピアノ伴奏版の評価は「ピアノ伴奏はヴァイオリンの邪魔こそすれ、成功していない」です(笑)。ローベルトがヴァイオリンパートに一切手を加えなかったのは幸いですが。
クララの曲がカップリングされるのは珍しくありませんが、続くダーフィット、ヨアヒムの曲は殆ど耳にする事が出来ないでしょう。どちらも今日作曲家としては忘れ去られていますが、ドイツロマン派らしい耳に心地よい良い曲を遺しています。
このCDの第二の特徴は使用楽器です。ヴァイオリン、フォルテピアノ共に19世紀の物が使われており、まさにローベルトが生きていた時代に作られた楽器たちです。ヴァイオリンはFrancesco
Pressenda, Turin (Torino) 1847、弓はJohn Dodd, London ca. 1830、及びDominique
Peccatte Mirecourt ca. 1847が使われています。フォルテピアノの方はディスクごとに異なる3種類のピアノが用いられており、
ディスク1: Fortepiano Conrad Graf Opus645, Wien 1821/22
ディスク2: Erard-Flugel No.14.845, Paris ca. 1839
ディスク3: Flugel J. B. Klems, Dusseldorf 1850
となっています。
この19世紀の楽器が奏でる音楽ですが、ピアノの音色だけではなく、録音状態もヴァイオリンの音色もディスクごとに異なるので、印象がディスクごとに異なります。
ディスク1はピアノの響きがチェンバロに近く、ヴァイオリンもまるでバロック・ヴァイオリンの様に素朴な「軽さ」をもって響くので、ピリオド楽器の演奏を聴いているという充実感が高く楽しめます。演奏もゆったり目のテンポで楽器の響きを大切にしています。録音も倍音を豊かに捉えてクリアです。ここで演奏されるローベルトの室内楽は文句無く楽しめますね。
ディスク2はピアノ、ヴァイオリン共に音色が現代楽器に近くなります。使っている弓が違うのか、ディスク1とは同じヴァイオリンとは思えない音色の変化です。しかも録音が一瞬モノラルと勘違いするほどにこもってクリアではなく、ピアノもヴァイオリンも殆ど響きません。出来の悪い現代楽器を聴いているかの様な印象です。従ってこのディスクに収録されているローベルトのヴァイオリンソナタは、SP復刻版を聴く時の様に音色は忘れて演奏そのものに集中しないと楽しめません。但し最後のヴァイオリンソナタ第3番の録音だけはクリアで、次のディスク3に近い印象を持ちました。しかし演奏の方も質素で渋い感じなので、好き好きでしょうね。
珍しい曲が満載された注目のディスク3ですが、ピアノの響きは現代楽器そのもの、高音域の伸びやかさも現代楽器と比較して遜色ありません。ヴァイオリンも現代風に響きます。録音も3枚の中では一番クリアです。そうなるとヴァイオリンの響きの絶対的な少なさが素朴さにはつながらず、ディスク2で感じたような「出来の悪い現代楽器」という印象が更に現実味を増してしまいます。ヴァイオリニストのランドグラーフはビブラートを殆ど用いず、誠実に質素に演奏するので、全体的な印象は私の耳には渋すぎるものです。
一つ前に掲載したDIE ROMANTISCHE VIOLINEも同じ19世紀の楽器を用いた演奏でしたが、あちらのヴァイオリンは現代楽器ほどには響かないながら、鳴っている時は類い希な美音だったので思わず引き込まれてしまう演奏でしたが、こちらのディスク2と3のヴァイオリンは音色が平凡なので、現代楽器がただ響かないだけで終わってしまっている印象です。
さて、クララの3つのロマンス・作品22の演奏ですが、渋すぎる、質素すぎる演奏と申しておきます。楽器の音色と響きが魅力に欠ける事に加えて、演奏者の「ノリ」が悪い感じなのです。第1曲はゆったりとしたテンポで演奏されます。クララのチャーミングな曲を繊細に演奏しようという意図は分るのですが、全体的に沈み込んで、あっさりと演奏してゆきます。一転して第2曲はテンポが速めで、それでいてニュアンスの付加は最小限なので、あっさりさが更に高まった感じを持ってしまいます。第3曲もテンポの速い演奏です。音色そのものは現代ピアノ風ながら、19世紀に作られたフォルテピアノの響きがこの速度について来れない印象が少しありまして、速い伴奏部分では音が立ち上がる前に次の音がなってしまい、複数の音が篭ってしまっています。ヴァイオリンの演奏のあっさりさは相変わらずです。
クララのロマンスに続くダーフィットの曲では、一転伸びやかなヴァイオリンの響きを聞かせるので、クララの演奏は純粋に演奏者の解釈の問題の様な気がしました。
ヴァイオリニストのランドグラーフ、ピアニストのコッホ共にまだ若い演奏家で、どちらもバロック系を得意分野としているようです。解説書には明快な年齢とか国籍を示す記述がありませんでしたが、20世紀が終わる頃にやっと大学を卒業したようですので、まだ30代前半の年齢ではないでしょうか。ランドグラーフはベルギーで学び、数多くのバロック系室内楽団と共演しています。コッホはドイツ、オーストリーで学び、チェンバロ、クラヴィコード、フォルテピアノ、オルガンを専門とする奏者です。
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