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カルメン・ファンタジー
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渡辺玲子(Vn)、江口玲(Pf)
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レーベル;エイベックス・クラシックス |
入手性;国内盤 |
CD番号;AVCL-25197 |
お気に入り度;★★★★ |
録音年月日;2006年12月5-7日、軽井沢大賀ホール 録音;DSD |
資料的貴重度;★ |
収録時間;56分03秒 |
音質 ;★★★★★ |
収録曲
- ワックスマン:カルメン幻想曲
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サラサーテ:ツィゴイネルワイゼン
- クララ・シューマン:ヴァイオリンとピアノの為の三つのロマンス・作品22
- シマノフスキー:神話ー3つの詩
- パガニーニ/シマノフスキ編曲:カプリース24番
コメント
2008年6月末に発売になった、日本人によるクララの曲を取り上げたCDです。このCDの直後に日本人によるクララのピアノ協奏曲・室内楽版のCDも発売されて、私的に2008年の夏はちょっとしたフィーバーでした。クララの曲が日本人に取り上げられる事が同胞として嬉しいだけではなく、客観的に見て日本人の演奏水準はおしなべて高く、細部にまで心が行き届いていて、およそハズレが無いからです。そしてこのCDでもその経験則は生きています。
カルメン幻想曲、ツィゴイネルワイゼンとくればサラサーテ、と思ってCDを再生したら、第一曲目のカルメン幻想曲はワックスマンの物でした。私が初めて耳にする曲ですが、著名曲のメロディを使った編曲なので違和感は無く、冒頭から存分に楽しめました。CDのタイトルにしていることからも伺えるように、渡辺さんのこの曲への思い入れとか心配りは絶品で、目まぐるしく演奏される無数の音符ひとつひとつに、また無限の色彩が与えられています。この演奏を聴いていると時々同じ楽器の音とは思えぬほど違った音も出てきて、ヴァイオリンって表現力が豊かなんだなと感心させられます。これに寄り添う江口さんのピアノの息もピッタリで、とても表情の幅が広い演奏を繰り広げています。
それは続くツィゴイネルワイゼンでも同様で、星の数ほどの演奏家がCD録音している名曲ですが、それを新たに録音されただけあって、細部の表情にまで一分の隙も無く気を配った、繊細かつダイナミックな弓遣いの演奏になっています。
クララの曲の解説は最後に回す事にしまして、続くシマノフスキの「神話ー3つの詩」ですが、現代音楽らしく不協和音に満ち溢れたとても難解な曲。私の守備範囲外なので多くを書けませんが、ヴァイオリンとピアノの音を注意深く聴いていると、お二人のこの音楽に対する理解が深いのか、カルメン幻想曲同様に音に実に細やかな変化と表情が与えられています。
最後のパガニーニのカプリース24番をシマノフスキが編曲したものですが、原曲には無いピアノ伴奏付きになっています。ピアノ伴奏付きカプリースと言えばシューマンの物がありますが、あちらはヴァイオリンパートには一切手を付けずに、伴奏のピアノパートを単純に付加したものになっています。しかも名曲である最後の24番にはピアノ伴奏を付けていません(出版時にゲオルグ・シェーネマンが伴奏付加したものがありますが、シューマンの物ではありません)。一方のシマノフスキの編曲版ですが、その24番にピアノ伴奏を付けています。その内容パガニーニというよりもシマノフスキの音楽になっています。ですからパガニーニらしさを期待して聴くと「?」、シマノフスキ好きなら「!」の音楽では無いでしょうか。
さて、クララのヴァイオリンとピアノの為の3つのロマンス・作品22ですが、全曲を通じてテンポは標準的で、大きな変化はありません。ヴァイオリンはカルメン幻想曲やツィゴイネルワイゼンまでとは異った弓遣いで、ヴィブラートをあまり目立たせず、持続音の表情変化も少なめで、比較的淡泊な音によって音楽を紡いで行きます。注意深く聴いていると、音を伸ばすところをやや長めにしてメロディの「溜め」を作ったり、淡々とした音だと思って聴いていると、時折細やかな表情変化があったりしますので、これが渡辺さんの解釈なのだと感じました。一方で江口さんのピアノはとても柔らかく、ヴァイオリン(女性)を愛おしむ様に表情を変えながら優しく寄り添っています。
この曲のリファレンスにしているゲリウストリオの演奏と聴き比べると、音楽の表情に大きな違いがあります。Sreten KrsticとMichaela Geriusの演奏する作品22は、若くて、とても可愛らしく、夢見る乙女の心情を歌い上げるような、甘く、ロマンティックな曲になっています。そこに表れる女性は、ロングヘアで、フリルのついた綺麗なドレスを着て、愛しい男性の側で甘えています。対する渡辺さんの作品22に表れる女性像はもっと大人で、現実的と言いましょうか。多分ショートヘアか、髪を結っていて、仕事に相応しい服を着ている様な印象です。愛しい男性に甘えているというよりも、もっと独立心の強い女性ですね。言葉を探している時にCDのジャケットを見て「!」と思いました。この音楽に表れる女性は渡辺さんご自身なのかも知れません。
Sreten Krsticと渡辺さんの音楽の違いは、演奏の違いだけではなく、ヴァイオリンの音色の違いも大きいと思いました。Krsticの使っているヴァイオリンは1711年製のストラディヴァリウス、渡辺さんはGiovanni Maria del Bussetto 1680, Cremonaを使っています。このヴァイオリンの音は妖艶さや甘さよりも気丈さを感じる物で、このCDのメインディッシュであるカルメン幻想曲で、強くて情熱的なスペイン女性の心情を歌い上げるのに相応しい楽器なのだと思います。それを裏付けるように、渡辺さんも他のCD録音ではストラディヴァリウスを用いているのですが、このCDではブセットを用いています。それによってスペイン女性の様な気丈なクララのロマンスが生まれた、と言えるかも知れません。私が思い描くロマンスとは異りますが、これはこれで存在感のあるロマンスだと思います。
渡辺玲子さんはニューヨークに在住して、コンサート等のソリストとして活躍されています。このCDは5枚目で、これまでにバッハの無伴奏ヴァイオリンソナタ&パルティータ集、ベルグの協奏曲&室内楽、ヴィエニャエフスキやグルック等の名曲集、ショスタコーヴィッチとチャイコフスキーの協奏曲のCDをリリースされています。
江口玲さんもニューヨークに在住されて、ニューヨーク市立大学で教鞭を執っておられる他、ピアニストとして
活躍されています。
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