ホームに戻る 所有CDリストに戻る 手前のCD解説 次のCD解説
|
Kreisleriana
Texte von E.T.A. Hoffmann, Werke von E.T.A.
Hoffmann & Clara Schumann
|
Christine Schornsheim (Pf), Friedhelm Eberle
(朗読)
|
レーベル;querstand(ドイツ) |
入手性;海外現行盤 |
CD番号;VKJK 9922 |
お気に入り度;★★★ |
録音年月日;1999年1月15-17日 録音;DDD |
資料的貴重度;★★★ |
収録時間;74分02秒 |
音質 ;★★★★ |
収録曲
-
E.T.A. ホフマン;(ドイツ語朗読)楽長ヨハネス・クライスラーの伝記の断章から
-
E.T.A. ホフマン;ピアノソナタ・ヘ短調
-
E.T.A. ホフマン;(ドイツ語朗読)音楽愛好家
-
クララ・シューマン;三つのロマンス・作品11、第1曲
-
E.T.A. ホフマン;(ドイツ語朗読)ヨハネス・クライスラーの音楽的悩み
-
クララ・シューマン;三つのロマンス・作品11、第2曲
-
E.T.A. ホフマン;(ドイツ語朗読)音楽の気高い世界への思い
-
クララ・シューマン;三つのロマンス・作品11、第3曲
コメント
このCDは、E.T.A.ホフマンの作品の朗読の中に、彼自身の作のピアノソナタ、そしてクララの三つのロマンス作品11の演奏を織り混ぜたものです。そしてこのCDの何よりのハイライトが、ここで演奏に使われているピアノが、クララが1828年10月20日にライプツィッヒ・ゲヴァントハウスでコンサートピアニストとしてデビューした時に用いられ、あのドイツ100マルク紙幣に描かれているSteinのピアノである、という事です。
E.T.A.ホフマンは1776年生まれのドイツ人で、本来の名前は Ernst Theodor
Wilhelm Hoffmann。しかしモーツアルトを愛するあまりに三つ目の名前をAmadeusに変えてしまった人です。本職(?)は裁判所の判事ですが、マルチタレントな人物で、小説家、画家、批評家、脚本家、音楽教師などとしても才能を発揮しました。現代に彼の名を知らしめているものは、やはり彼の小説によるものでしょう。
このCDのタイトルの「クライスレリアーナ」はホフマンの小説のタイトルであり、また彼のペンネームの「楽長クライスラー」から来ています。
ローベルト・シューマンが若い頃にホフマンに傾倒し、彼の小説にヒントを得て傑作「クライスレリアーナ・作品16」を作曲したことは、クライスレリアーナのCDの解説を読まれたことのある方なら御存知でしょう。ホフマンは「クライスレリアーナ」の中で叶わぬ恋を語り、ローベルトはそこにクララとの恋の姿を重ね合わせた結果、あの様な情熱的な音楽が生まれたとも言われています。
このCDで朗読されている文章はホフマンの「クライスレリアーナ」から採られている物だと思いますが、何分ホフマンの小説を読んだことが無いので違うかも知れません。ホフマンの作品集は日本語で数種類が入手可能です。
ローベルトの「クライスレリアーナ」ではなく、その曲の起源になったホフマンの朗読とクララの作品11を組み合わせるコンセプトは、ちょっと深淵に過ぎて私には理解できない部分があります。あえて解釈すれば、ローベルトのクライスレリアーナは1838年4月の作曲。クララの作品11は1839年春から秋にかけての作曲で、どちらも父フリードリッヒ・ヴィークの反対を受けて結婚出来ない葛藤の中で作曲されました。それだけに両曲共に相手を求めて止まない情熱的な哀愁に満ちています。しかし「クライスレリアーナ・作品16」と「三つのロマンス・作品11」を組み合わせたのでは、他のCDと大きな違いが出せないからかも知れません(もっともこの二曲をカップリングしたCDは存在しませんが)。そこで、クライスレリアーナをホフマンの小説の朗読に置き換えたのでしょうか。生憎私はドイツ語が分かないので、ここで読まれているテキストが、クララの作品11に織り込まれている作曲者の心情とどの様に関連付けられているのかは分かりません。
クララのピアノですが、ツヴァイカウのローベルト・シューマン・ハウスに保存されているもので、前述の通り、クララが9才の時にライプツィッヒ・ゲヴァントハウスでデビューした時に演奏された物です。CDのライナーノーツの表紙には次のような記載があります。
Robert Schumann Haus Zwickau
Hammerflugel von M. A. Stein Wien um 1825
Debutinstrument Clara Wieck Schumann 1828
これによれば1825年製のAndreas Mattaus Stein (Mattausの二つ目のaはウムラウト付)製ハンマーフリューゲルです。その後、長年演奏されることも無くシューマンハウスで「Sleeping
Beauty」として眠っていたピアノを、クララ没後100年を前にした1995年から1996年にかけてRobert
A Brownという人が完全にレストアしました。それにより、クララの若き日のピアノの音色が現代に蘇ることになりました。
右の写真はCDのジャケットに載っていた写真で、100マルク紙幣(下端に掲載)と同じアングルで撮影されています。これを見ると、まさにこのピアノが100マルク紙幣のピアノであることが分かります。
ドイツ100マルク紙幣にはミスにより4本描かれたピアノのペダルは、実は(当然ですが)3本しかありません。また、100マルクに描かれたピアノの胴体の陰影、写り込みの書き方を見ると実物とはかなり違っていて、あたかも最新の漆黒鏡面のピアノの様に描かれています。その他細かい部分の作りも異なっているので、恐らくお札のデザインを担当した人は、実物の写真ではなく、簡単なスケッチを見せられて描いたのかも知れません。
ホフマンのピアノソナタは、多分他では聞けない曲だと思います。3楽章からなりますが、全部で9分程度の短い曲です。古典派からロマン派の間に生きた人らしく、ベートーベンの影響を強く感じる楽想の中に、時折ロマン派的な優しい和音とメロディが聞こえます。
クララの作品11は、他に無い19世紀初めのハンマーフリューゲルの音色を得て、今まで聴いた事のない愛らしさと哀愁を漂わせています。現代のピアノの様には強奏出来ませんし、クリスタルの様に透き通る高音もありませんが、控え目に沈んだ音色は、クララの作品の本来持っている美しさを再現していると思います。第1曲は文句無く、この曲の中では異色な程の個性を持った名演です。それは第二曲、第三曲でも同様で、このピアノの持つ素朴な響きは、若きクララの心情を滔々と語るのに相応しいものです。このCDの演奏からは決してピアニストの華麗なテクニックも聞き取れませんし、他の大作曲家とクララの作曲技法を比較するリファレンスとしても使うことが出来ません。しかし、そんな雑事を忘れて、当時のクララと対峙するのであれば、とても素敵な演奏です。
このCDはカデンツァなどの幾つかの輸入盤専門インターネットCDショップで購入可能です。ただ、大手ショップの店頭在庫としては見掛けたことが有りません。
ホームに戻る 所有CDリストに戻る 手前のCD解説 次のCD解説
|