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Clara Schumann et son temps...
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Jean Martin, Christian Ivaldi (Pf)
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レーベル;ARION |
入手性;海外現行盤 |
CD番号;ARN 268603 |
お気に入り度;★★★ |
録音年月日;1973年、1980年、1982年 録音;ADD |
資料的貴重度;★★★ |
収録時間;71分53秒+72分42秒 |
音質 ;★★★ |
収録曲
CD1
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クララ・シューマン:ローベルト・シューマンの主題による変奏曲・作品20
(J73)
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クララ・シューマン:三つのロマンス・作品21 (J73)
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ヨハネス・ブラームス:ピアノソナタ第2番・作品2 (J73)
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ヨハネス・ブラームス:スケルツォ・作品4 (J82)
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ヨハネス・ブラームス:ローベルト・シューマンの主題による変奏曲・作品9 (J82)
CD2
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クララ・シューマン:スケルツォ第2番・作品14 (C80)
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クララ・シューマン:四つの束の間の小品・作品15から第1曲 (C80)
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クララ・シューマン:三つのロマンス・作品11から第3曲 (C80)
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クララ・シューマン:四つの束の間の小品・作品15から第3曲、第4曲 (C80)
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ローベルト・シューマン:ピアノソナタ第1番・作品11 (J73)
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ローベルト・シューマン:クララ・ヴィークの主題による即興曲・作品5 (J73)
注1)CDジャケットにはCD2の第2トラックがOP.11-3、第3〜5トラックがOP.15-1/3/4と記載されているが誤りで、実際の収録順は上記の通り。
注2)曲名の後の(J73)等の注記は、最初のアルファベットがピアニストで、JがJean
Martin、CがChristian Ivaldiによる演奏。次の二桁の数字が録音年。
コメント
クララとローベルト、ヨハネスの三人の関係を音楽で綴ったCDです。これまでにも何枚か同じコンセプトのCDがありましたが、2枚組CDは初めてでそれだけに内容が豊富です。しかし二人のピアニストによる、録音タイミングも離れた音源を寄せ集めただけに、コンセプトの詰めに甘さを感じたりもします。
まず収録されている曲と三人の関係について解明して行きましょう。(なお、太字の曲はこのCDに収録されている曲、アンダーラインの曲は収録されていない曲です)
CD1冒頭のクララの「ローベルト・シューマンの主題による変奏曲・作品20」はローベルトの「色とりどりの小品・作品99」の第4曲のテーマを用いた変奏曲で、最終変奏にクララの「ロマンス・ヴァリエ・作品3」のテーマをローベルトのテーマに絡めることで、妻から夫への愛を表現しています。この曲は1853年6月3日に完成し、クララとローベルトが一緒に祝う事の出来た最後のローベルトの誕生日の1853年6月8日に夫に献呈されました。クララの作品20に刺激を受けてブラームスも同名の曲(後述)を作曲した事で、この曲とブラームスの関係を深いものにしています。
次の「三つのロマンス・作品21」も1853年6月に作曲されて、第1曲は冒頭の作品20と一緒にローベルトの誕生日に夫に献呈されています。しかし全曲出版に際してはブラームスに献呈されています。この様にCD1のクララの曲はローベルトとブラームスに関係の深い曲が選ばれています。
続くブラームスの「ピアノソナタ第2番・作品2」と「スケルツォ・作品4」は1853年10月1日にシューマン夫妻の前で初めて演奏した曲の中に含まれていました。そしてピアノソナタの方はブラームスからクララに献呈された最初の曲になりました。スケルツォの方はブラームスの生前に出版された曲の中では最初に作曲された曲ですが、この曲の初演は1853年6月8日です。ブラームスがシューマン夫妻と逢うよりも前の事なので単なる偶然ですが、ピアニストがここまで知ってこの曲を選んだとすれば凄いですね。何れにせよブラームスのこの二曲は音楽史に残る三人の関係の序幕を行った曲として相応しい選曲だと思います。
CD1最後の「ローベルト・シューマンの主題による変奏曲・作品9」は、ブラームスがクララの作品20に刺激を受けて、全く同じコンセプトで作曲されました。すなわちローベルトの作品99-4のテーマを用いて、クララの作品3のテーマも絡めて変奏曲を仕上げています。ただ一説によればクララの作品3を使うアイデアはブラームスのもので、クララが後から作品20を修正し作品3のテーマを加えたとされています。ブラームスは作品9に更にローベルトの「クララ・ヴィークの主題による即興曲・作品5」1833年オリジナル版の終曲部分をこの曲の最終変奏後半に大胆に取り入れています。曲のエンディングはローベルトの作品5と全く同じ終わり方で、それはクララの作品3の序奏が提示され、これから主題演奏!という所で突然に曲が消えてしまい、聴衆の頭の中にクララの曲を奏でさせる、という物です。
ブラームスは1854年9月25日にブライトコプフ・ウント・ヘルテル社にあてた手紙で、彼の作品9とクララの作品20を同時に出版してくれるように要請しています。
CD2に話を進めましょう。まずクララの曲ですが、Christian Ivaldiが演奏している為か、今一つ三人の間のつながりに乏しいものになっています。冒頭の「スケルツォ第2番・作品14」は1844年頃に作曲されて、トゥータイン夫人(詳細は不明)に献呈されています。この曲の中間部のメロディがクララとローベルト共作の「恋の春からの12の歌・作品12/37」の第2曲(彼はやって来た〜クララが作曲)のピアノパートに用いられている事を知っての選曲なら奥ゆかしいのですが、、、
「四つの束の間の小品・作品15」は全曲演奏ではなく、何故か第2曲が省かれてそこに「三つのロマンス・作品11の第3曲」が挿入されています。作品15は1840年から44年にかけて作曲されて、異母妹のマリー・ヴィークに献呈されていますが、ローベルトとのつながりは殆どありません。第3曲の旋律はブラームスがピアノソナタ第3番の中に用いているので、むしろブラームス側の繋がりでの選曲でしょうか?
何故か作品15の途中に挿入された作品11-3ですが、作品11全体はローベルトとの結婚について父フリードリッヒ・ヴィークと裁判をおこすと決めた1839年初夏までに作曲されて「これは小さな憂愁をたたえたロマンスです。それを作曲している間、わたしはずっとあなたのことを考えていました。」というコメントと共にローベルトに献呈されました。それ故に作品11こそ全曲収録するのがこのCDのコンセプトに沿っていると思います。
続くローベルトの「ピアノソナタ第1番・作品11」は「この曲は君に対する僕の心の叫びであり、君の旋律があらゆる形をとって出現する」とローベルトが書き添えてクララに献呈された曲です。この曲の第1楽章にはクララの「四つの性格的小品・作品5」の第4曲に用いられている旋律が至る所に現れます。
最後のローベルトの「クララ・ヴィークの主題による即興曲・作品5」は演奏頻度の高い1853年改訂版ではなく、1833年オリジナル版が選ばれています。これはこのCDにとって極めて大切な事で、CD1末尾のブラームスの作品9と同じエンディングになり、二枚のCDに強い関係性を生んでいます。ローベルトの作品5は文字通りクララの「ロマンス・ヴァリエ・作品3」の主題を用いた「即興曲」という名前の変奏曲です。1833年8月にクララからローベルトに作品3が献呈された返礼として、ローベルトはこの作品5を作曲し、クララの父、フリードリッヒ・ヴィークに献呈されました。この様に、ローベルトの曲に関してはクララとの関係が最も強い二つのピアノ曲が選ばれています。
この三人の繋がりを表現するCDを作る場合、クララのロマンス・ヴァリエ・作品3を省くとどうしても中途半端になります。全ての関係はこの曲から始まっていますので。またローベルトの色とりどりの小品・作品99も同様に主題共有連鎖の出発点になっていますので、省略すべきでは無かったと思います。それ以外にも「この曲を入れるなら、あの曲も収録しないと話がつながらないよな」と思う曲があるのは上に書いた通りです。
さて演奏の方ですが、全体的にまずますのレベルにあります。
CD1のクララの演奏はかなり豪放なものになっていて、キータッチが力強く粒立ち重視で、テンポが速い部分は極めて速く演奏されて、クララの淑やかさは影が薄くなっています。ブラームスの演奏はやはり粒立ち重視のキータッチになっていますが、これはブラームスの曲に合っていますし、テンポの取り方もクララの時ほど急ぐ印象は薄く、ブラームスの曲の平均からすると、むしろゆったりとした部分もあります。敢えて言えば、音と音のつながりがあっさり気味なので芳純さには乏しいかも知れません。
CD2のクララの演奏は曲によって違いがあり、スケルツォ第2番は極めて速く演奏されます。しかしこの曲はもともと急速な曲なので、ダイナミックさが強調されて悪くはありません。続く四つの束の間の小品と三つのロマンスですが、一転してゆったりとしたクララに相応しいテンポで演奏されます。これでもう少し音と音の繋がりに潤いを持たせてくれたら文句はありません。
ローベルトのピアノソナタ第1番は中々の名演だと思います。リズムとテンポが大切なこの曲で、音の粒立ちをハッキリとさせて、右手と左手のリズムの掛け合いを上手く表現しています。クララ・ヴィークの主題による即興曲も、多少音と音のつながりにぎこちなさを感じる以外には不満はありません。
録音は70年代〜80年代初期アナログ録音の標準的なもので、現在の基準からすればレンジはやや狭く、ヒスノイズも目立ちますが、音は自然でステレオ感も不足ありませんので音楽を聴く上での不都合はありません。
二人のピアニストはどちらもフランス人で、Jean Martinの方はイブ・ナットに師事したそうです。Christian
Ivaldiはパリ音楽院で教鞭を取っているとの事です。
最後にこのCDの入手性ですが、かなり難しいと思われます。私はこのCDの入手に際して日本語、英語圏のCDショップを片っ端から検索しましたが何処にも無く、有ったのはフランス語圏の店と、ドイツのamazon.deのみでした。私はamazon.deから購入しています。
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