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Beloved Clara A true story of passion, music and tragedy
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Lucy Parham (Pf), Joanna David, Martin Jarvis (朗読)
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レーベル;ASV |
入手性;輸入現行盤 |
CD番号;CD DCA 1185 |
お気に入り度;★★★★ |
録音年月日;1996年5月〜2006年12月20日 録音;DDD |
資料的貴重度;★★ |
収録時間;79分49秒 |
音質 ;★★★★ |
収録曲
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ローベルト・シューマン:ピアノ協奏曲・イ短調、第1楽章冒頭
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朗読:This little book
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ローベルト・シューマン:夕べに(幻想小曲集・作品12-1)
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朗読:My Robert
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フェリックス・メンデルスゾーン:春の歌(無言歌・作品62-6)
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朗読:My Clara is love and kindness
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ローベルト・シューマン:ピアノソナタ第2番・作品22、第1楽章
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朗読:Oh Robert! If only you knew..
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クララ・シューマン:三つのロマンス・作品11から第1曲
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朗読:And now 1st October
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ヨハネス・ブラームス:ピアノソナタ第3番・作品5からスケルツォ
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朗読:28th October 1853
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ローベルト・シューマン:クライスレリアーナ・作品16から第7曲 Sehr Langsam
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朗読:Winter 1854
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ローベルト・シューマン:ウィーンの謝肉祭の道化・作品26からインテルメッツォ
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朗読:What can I say about his letter
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ローベルト・シューマン:クライスレリアーナ・作品16から第1曲 Auberst Bewegt
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朗読:Johannes plays a great deal
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ヨハネス・ブラームス:6つの小品・作品118から第1曲インテルメッツォ
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朗読:Brahms told me much about himself
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ローベルト・シューマン:三つのロマンス・作品28から第2曲
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朗読:At first he lay with eyes closed
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ローベルト・シューマン:トロイメライ
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朗読:After Robert Schumann's death
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ヨハネス・ブラームス:8つの小品・作品76から第1曲カプリッチョ
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朗読:Eugenie Schumann
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ヨハネス・ブラームス:4つの小品・作品119から第1曲インテルメッツォ
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朗読:Brahms' final visit
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ローベルト・シューマン/フランツ・リスト:献呈(歌曲集ミルテの花・作品25の第1曲のピアノ独奏編曲)
コメント
ピアノ音楽と英語の朗読により、ローベルト&クララ・シューマン、ヨハネス・ブラームスの三人の人生を描くCDです。
Lucy Parhanmはローベルト&クララ・シューマンのピアノ協奏曲(クララの未完の協奏曲を含む)で素晴らしい演奏を披露してくれたピアニストですが、彼女はシューマン夫妻の熱烈な研究家でもあり、それが高じて音楽ジャーナリストのJessica Duchenと共に舞台朗読劇「Beloved Clara」を作り上げました。これは3人の日記や手紙、そしてクララの4女オイゲニー・シューマンの回顧録を台本として、ピアノ音楽と共に演じられる劇で、2002年にロンドンのウィグモアホールで初演されてから好評となり、各地で公演されたとの事です。この朗読劇の好評に応える形で制作されたのがこのCDです。
CD解説によれば舞台公演では総勢13名の俳優が起用されたと書いてあり、てっきり舞台版では複数の俳優がオペラかミュージカルの様に演技するのかと思いましたが、Jessica Duchenのブログを読んだところ、舞台でも登場するのはピアニストのLucy Parhamと、声優が男女各1名の合計3名のみとの事です。今まで多数の公演があり、声優が公演毎に入れ替わったので総勢13名に及んだのでした。登場人物としては男性がローベルト、ヨハネス、ナレーション、女性がクララ、オイゲニー、ナレーションの6名が登場しましが、声優は男女ひとりづつの二人だけなので、声優側は役割によって声質を変える努力をしているものの、聴いている側は声だけでは誰を演じているのか分かりにくい部分があります。朗読と朗読の間に挟まれる音楽は曲集の中の一曲または一楽章のみの抜粋で、曲の前後は朗読とオーバーラップする事が多々ありますので、音楽をじっくり聴く目的ならばこのCDは相応しくありません。
しかし、朗読によって三人の心の動きや出来事を追いながら挿入されたピアノ曲を聴いていると、普段とはまた違った形で心に染み入ってきます。ローベルトの曲が持つクララへのファンタジックな愛の叫び、ヨハネスの曲の持つ情熱的でありながら内面的な美しさ、クララの曲の持つ繊細さと深い哀愁。聴衆は曲が始まる前に朗読によって登場人物の感情とかその場の雰囲気と同化していますので、次に流れてくる音楽が正にその感情や雰囲気を音符にしたものなのだ、という印象を強く感じつつ、内なる心と音楽が一体となって漂うのです。
流石にシューマン夫妻とブラームスを深く研究しているプロのピアニストだけあって、Lucy Parhamのピアノは高水準で、冷徹に聴いても殆ど非の打ち所はありません。従って、朗読劇に挿入される音楽としては完璧と思える演奏になっています。例えばクララのロマンス・作品11-1は曲だけに着目すればより良い演奏を他に探す事も出来ますが、クララの心の小さな葛藤を描いた朗読の後で聴くとこれ以上は無いと思えるほどにゾクッとします。これはローベルトやヨハネスの曲でも同じで、特にヨハネス・ブラームスのクララへの愛と葛藤や、クララへの深い思いやりが朗読で語られた後で聴く小品の美しさは格別です。
朗読劇はクララとローベルトが結婚した翌日(1840年9月13日)、クララ21才の誕生日に夫婦交換日記を始める所からスタートして、クララの死(1896年5月20日)の後、墓の前に立つヨハネスの姿で終えます。その間、クララとローベルトの幸福な新婚時代、ローベルトの作曲を優先してピアノの練習が出来ないクララの悩み、生活のためにコンサートを始めるクララ、ヨハネスの登場と喜び、ローベルトの自殺未遂と精神病院への入院、入院中のローベルトを想うクララとヨハネス、最後の二人の再会とローベルトの死、その後のクララとヨハネスの紆余曲折、終生の友情に昇華してゆくクララとヨハネスの愛、そしてクララの死、が採り上げられています。
朗読を聴いていて、特に二つ嬉しかった事があります。ひとつはヨハネス・ブラームスがシューマン家を訪問した日をきちんと1853年10月1日としていること。ほぼ全ての伝記(特にブラームス関連の伝記では私の知る限り全て)が9月30日としていますが、この日シューマン夫妻は外出中でした。定説をきちんと考察して訂正するあたり流石はシューマン夫妻研究家のLucy Parhamです。
もう一つはクララの4女オイゲニーが最初に登場する時の想い出話が、彼女の回顧録の中で私が一番好きな部分から採られている事です。それは以下の文章で、私はあまりもの面白さに2002年3月13日に掲示板に全文を書き込んで皆さんに紹介した事がありました。
I see, as though it were in a picture, a group of children standing in the hall of our house in Dusseldorf. With amazement and admiration they are looking up at the banisters, on which a fair young man is performing the most daring gymnastics. He hoists himself from right to left and up and down ; at last he raises himself firmly on his arms, with his legs high in the air, and a final leap lands him below in the midst of the admiring crowd of children. I and my elder brothers and sisters were the children, and the young man was Johannes Brahms.
何とヨハネス・ブラームスは体操の名手らしく、シューマン家の幼い子供たちの前で逆立ちしたり飛び跳ねたりしたそうです。
このCDは英語がある程度出来て、クララ、ローベルト、ヨハネスの音楽が好きな方にはお勧めです。輸入盤ですが大手のインターネットCDショップから入手可能です。
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