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CLARA SCHUMANNS KLAVIER
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Eugenie Russo (Pf)
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レーベル;ACANTHUS |
入手性;海外現行盤 |
CD番号;20 005 |
お気に入り度;★★★★★ |
録音年月日;2007年1月22-26日 録音;DDD |
資料的貴重度;★★★★★ |
収録時間;64分23秒 |
音質 ;★★★★ |
収録曲
(全てクララ・シューマンの曲です)
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音楽の夜会・作品6から第1曲 トッカティーナ
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音楽の夜会・作品6から第2曲 ノットゥルノ
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即興曲ウィーンの想い出・作品9
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ピアノソナタ・ト短調
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三つのロマンス・作品11
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四つの束の間の小品・作品15
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三つのロマンス・作品21から第1曲 アンダンテ
コメント
ウィーンの美術史博物館とACANTHUS RECORDのコラボレーションによる、同博物館所蔵の古楽器コレクションを演奏したCDとして、クララ関連では二枚目になります。前回のDIE
ROMANTISCHE VIOLINEでは類まれな美音を持つニコラウス・サヴィッキのヴァイオリンによって演奏されたクララの「ヴァイオリンとピアノの為の三つのロマンス・作品22」に陶酔し、太鼓判を押しましたが、「CLARA
SCHUMANNS KLAVIER」(クララ・シューマンのピアノ)と題されたこのCDはそれ以上の収穫です。
まず使われているピアノですが、1870年1月19日に、ウィーン楽友協会の小ホール(現在のブラームスザール)のこけら落としで、クララ・シューマンが演奏した
Johann Baptist Streicher & Sohn, Wien, 1868, inv.-Nr.SAM 634です。ウィーン楽友協会(ヴィーナ・ムジークフェライン)の建物のこけら落としは、まず1870年1月6日に大ホールで催され、続く19日に「クララ・シューマンのコンサート」という形で小ホールで行われました。その時の曲目にはブラームス、シューベルト、メンデルスゾーン、ショパン、シューマン等のクララお気に入りの作曲家の物で占められました。このコンサートの後でピアノはシュトライヒャー社に保管されて、1957年に現在のウィーン美術史博物館に寄贈されています。
ピアノはローズウッド調の美しい仕上げで、金文字で正面にJ. B. STREICHERの文字が刻まれ、さらに内部には当時のシュトライヒャー社の社長エミール・シュトライヒャー直筆による「クララ・シューマンが1870年1月に演奏した」旨の説明書きとサインがあります。
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上段はピアノの正面に描かれたピアノの銘。下段はピアノの全景と、ヴィーン・ムジークフェライン・小ホールのこけら落としの時のコンサートプログラム。何れもCDライナーノーツに掲載された写真を引用。
Quoted from liner note of this CD, ACANTHUS 20005.
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ピアニストのオイゲニーエ・ルッソ(英語読みならユージェニー・ルッソ)はニューヨークに生まれ、国立ウィーン音楽大学に学び、1982年からプロとしての演奏活動を始めています。現在はウィーン国際ピアニストアカデミーの教授を勤めています。数々のコンサートに出演する一方で、ガーシュインやコープランドと言った作曲家のCDを数枚出しているようです。
収録曲は全てクララの物で、それ故にこのCDは隅から隅までクララづくしになっています。曲目は「違いの分る選択」とでも言いましょうか、演奏頻度の低い曲も含めてメロディの美しい物が選ばれています。
歴史的な楽器(ハンマーフリューゲル)による演奏なので、それなりの音を期待(覚悟)してCD演奏のスイッチを入れたのですが、クララの音楽夜会・トッカティーナが演奏されるや、現代ピアノと比較しても何ら遜色の無い美しい響きと音色、完ぺきな調律と和音の調和に少し驚きました。良く聞くとスタインウェイ等とは異る音の立ち上がりのまろやかさがありますが、一般的な古楽器ピアノに感じる、基音が合っても倍音の調律が狂っている様な感覚や、速いパッセージは無理だろうと感じさせるゆったりとした音の立ち上がり、チェンバロに近い音色などは皆無です。彫刻に例えて、大胆なカットから微細な表現まで余す事なく刻んでいるけれども、最新の彫刻に比べると全てのエッヂが丁寧に丸く仕上げられている、と言えば音色の雰囲気が伝わりますでしょうか。
1868年のヨハン・バプティスト・シュトライヒャーと言えば同社の中では後期の楽器で、特許のアングロジャーマンアクションと呼ばれる打鍵方法(それまでのウィーン式アクションとイギリス式アクションを組み合わせたもの)が取り入れられているのが効いている様に思います。クララ・シューマンが演奏したピアノによるCDはこれまで何枚かあり、私は合計5枚ほど持っていますが、一番新しいだけにこれらの中で一番音色の美しいピアノです。
オイゲニーエ・ルッソの演奏は極めて誠実で、テンポは速過ぎず遅過ぎず、突然の変化や即興も無く、音符の表情を的確に表現しており、クララも恐らくこの様に弾いていたのでは?と思わせるものです。
冒頭のトッカティーナは楽譜の指示通りに急速に演奏されますが、ピアノの音はそのテンポに全く遅れる事なくついてきて、それでいて荒くなる事は皆無で、極めて心地よい曲になっています。続くノットゥルノはゆったりとした曲なので、スタインウェイ等と比べると多少柔らかで素朴な音が、より一層ニュアンスに富んだ曲を作り上げています。
即興曲ウィーンの想い出・作品9は、ウィーン美術史博物館のピアノを演奏する曲目として欠かせない物ですが、聴き慣れたスタインウェイによる力強さとクリスタルな輝きに満ちた演奏に対して、芳醇な響きの中に木の温もりが伝わってくるような、美しくも柔らかい演奏になっています。
続く曲でも印象は同じで、真摯で誠実な演奏を、現代ピアノ並の輝きを備えながら、柔らかな温もりを併せ持つシュトライヒャー
SAM 634の音で聴いていると、聴衆の周りに芳醇な時間と空間を作り上げて行きます。スタインウェイが作る音空間がクリスタルで透明感に富んだものだとすれば、シュトライヒャーのそれは琥珀色の音空間だと思います。琥珀色のクララの音符達に逢う事ができる、そのような印象のCDです。
ハイレベルな演奏の多いピアノ独奏曲のCDの中で、久しぶりに太鼓判を押したくなった演奏ですが、皆さんにお勧めするに当たりひとつだけ懸念があります。それはこのCDの入手性。以前紹介したこのレーベルの「DIE
ROMANTISCHE VIOLINE」は発注から入手までに一年半掛かりました。今回は発表と同時に注文を入れましたが、それでも3カ月掛かりました。2008年1月現在、日本語のサイトでこのCDが掲載されているのは、大手ではTowerRecordのみで、それ以外では個人経営に近い輸入盤ショップ「CDショップ・カデンツァなど」に幾つか記載があります。出来ればこれらショップに在庫を確認して注文されるのが宜しいでしょう。現地発注になると入手までに時間が掛かる可能性が大です。
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