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J. Joachim, C. Schumann A. Dietrich / R. Schumann / J. Brahms
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Jenny Abel (Vn), Mihai Ungureanu (Pf)
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レーベル;ARS MUSICI |
入手性;廃盤 |
CD番号;AM 1423-2 |
お気に入り度;★★★★★ |
録音年月日;2004年10月19-22日 録音;DDD |
資料的貴重度;★★ |
収録時間;61分09秒 |
音質 ;★★★★ |
収録曲
- ヨーゼフ・ヨアヒム:3つの小品・作品2
- ディートリッヒ/シューマン/ブラームス:FAEソナタ
- クララ・シューマン:ヴァイオリンとピアノの為の3つのロマンス・作品22
コメント
このCDは1853年10月当時のシューマン夫妻周辺の友人総出演で、天才ヴァイオリニスト・ヨーゼフ・ヨアヒムを賛えた選曲になっています。
ヨーゼフ・ヨアヒム(1831-1907)はローベルトの親友で、ローベルトが亡くなった時に亡骸を見た三人(クララ、ブラームス、ヨアヒム)のの中の一人です。
ヨアヒムは1853年5月にデュッセルドルフを訪問し、ベートーベンのヴァイオリン協奏曲を見事に演奏した後で、シューマン家でローベルトのヴァイオリンソナタ第1番の素晴らしい演奏をクララに披露しました。これに触発されてクララは唯一のヴァイオリン曲であるロマンス・作品22の作曲に着手し、10月にヨアヒムに献呈しています。
ヨアヒムは8月にも再訪し、今度はローベルトが触発されてヴァイオリンと管弦楽の為の幻想曲・作品131の作曲に取り掛かり、9月13日のクララのバースデープレゼントにしました。そしてヨアヒムはシューマン夫妻に最高のプレゼントを送り付けます。それがヨアヒムの紹介状を携えたブラームスで、9月30日にシューマン家を訪問し、翌10月1日に歴史的な出逢いを実現しています。ほぼ同時にローベルトはヴァイオリン協奏曲の作曲にも着手しており、同じ10月1日に完成しました。
ヨアヒムが10月14日に再訪した後で、ローベルト、ブラームス、ディートリッヒは次にヨアヒムが訪問する時のプレゼントにすべく、ヨアヒムの座右銘の「自由に、しかし孤独に Frei Arber Einsam」を主題に用いた三者合作のFAEソナタを作曲し、10月27日にヨアヒムに献呈しています。
その後ローベルトはこのFAEソナタのブラームスとディートリッヒが作曲した楽章を自作と入れ替えて、10月31日にヴァイオリンソナタ第3番として完成させています。
この様に、1853年5月から10月までのシューマン夫妻周辺はヨアヒム一色であり、このCDにはヨアヒムの作品と、ヨアヒムに献呈された2曲が収録されています。
ヴァイオリニストのJenny Abelは北海に近いドイツ・フーズムの生まれ。2歳でヴァイオリンを初めて7歳で初コンサート。11歳でユーディ・メニューインの目に留まり、13歳で音楽大学に入学し、ヘンリク・シェリングの下でMax Rostal's masterclassを修了したとありますので、早熟の天才だったようです。その後は絵画と声楽の勉強に寄り道しますが、19歳でヴァイオリンの道に戻り、現在に至っているようです。ジャケットの写真を見る限り、既に熟年の年齢にあるようです。ライナーノーツには数多くのCD録音とコンサート歴が掲載されていますが、アマゾンで検索すると15枚ほどのCDが出てきましたので、それなりのキャリアと人気を持っているヴァイオリニストのようです。
ピアニストのMihai Ungureanuはルーマニア生まれ。ブカレストでピアノを学び、1985年から87年にかけてルーマニア国内の幾つかのコンクールで優勝しています。その後は主にルーマニア国内でピアニストとして活動していましたが、1991年からJenny AbelとDuoを組んで活動しているとの事です。
収録順とは異りますが、まずクララの3つのロマンスは淑やかで味わい深い演奏になっています。比較的ゆったりとしたテンポと丁寧な弓使い、ピアノも一音一音を確実に柔らかく演奏することによって、細部まで繊細に描いています。ヴァイオリンの音色がゲリウストリオのストラディヴァリウス程には妖艶では無いのが残念ではありますが、静かな心でクララの音楽に浸る事の出来る演奏です。
ヨアヒムの3つの小品も、クララの曲の様にロマンティックな旋律に満たされた音楽で、Jenny Abelは丁寧で柔らかい弓使いで淑やかに音楽を紡いで行きます。寄り添うピアノの音色も柔らかく色彩豊かで、クララのロマンス同様に静かに楽しめる音楽になっています。
FAEソナタは前2曲に比べるとダイナミックな曲ですが、Jenny Abelのヴァイオリンは強奏部でも音が割れる事が無く、ニュアンスを残しています。代わりに強奏部でダイナミズムを引き受けるのがピアノで、ヴァイオリンを圧倒しないギリギリの所まで音量を上げて、タッチも鋭くして音楽を牽引して行きます。この両者のスタイルは弱音から強奏まで楽器の能力を使いきらず、僅かなゆとりを残す事で微妙なニュアンスを表現し続けており、それなりの見識と経験によるものでしょう。個人的にはダイナミックでありながらヒステリックにはならない演奏として、好印象を持ちました。
音質はとてもクリアです。ヴァイオリンの高音が耳に優しい一方で、ピアノの音がとてもクリアに聞こえるので、両者の掛け合いが明瞭に聴き取れます。一般的にはピアノが伴奏扱いで抑え目の録音になっているCDが多い中で、むしろピアノの存在感の方がやや大きい録音バランスになっており、ヴァイオリンソナタのCDとしては珍しい部類かも知れません。最高のハイファイ録音、という種類のものではありませんが、まず不満の出ない録音だと思います。
このCDは2007年10月に発売になっていますが、殆ど流通する事なく廃盤になった様です。私は米国のアウトレットショップ、バークシャーレコードから入手しています。2009年7月現在のアマゾンのサイトをチェックすると、ドイツ・アマゾンにしか掲載が無く、既に新品入手不能になっていますが、マーケットプレイスの中古なら待てば入手出来るかも知れません。
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