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Werke bedeutender Komponistinnen
fur Cello und Klavier
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Felicitas Stephan (Vc), Elena Margolina-Hait
(Pf)
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レーベル;FSM |
入手性;海外現行盤 |
CD番号;FCD 97273 |
お気に入り度;★★★ |
録音年月日;1998年7月 録音;DDD |
資料的貴重度;★★★★ |
収録時間;61分40秒 |
音質 ;★★★★ |
収録曲
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クララ・シューマン:ヴァイオリンとピアノの為の三つのロマンス・作品22(チェロへの編曲:Felicitas
Stephan)
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ルイーザ・アドルファ・ルボー (Luise Adorpha le Beau):チェロソナタ・作品17
(1878)
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ナディア・ブーランジェ (Nadia Boulanger):チェロとピアノの為の三つの作品
(1915)
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ヨハンナ・ゼンフター (Johanna Senfter):ソナタ・イ長調・作品10 (1913)
コメント
女性作曲家によるチェロとピアノの為の作品を収録したCDで、クララのヴァイオリンとピアノの為の三つのロマンス・作品22をチェロで演奏した史上2枚目のCDです。またクララ以外の女性作曲家は、私の手持の文献である「女性作曲家列伝」や「五線譜の薔薇」だけではなく、三省堂の「クラシック音楽作品名辞典」にすら掲載されていないほど、現代から忘れ去られている作曲家が選ばれています。
チェロとピアノによるクララの三つのロマンス・作品22ですが、史上初のCDとなったHarry
Clark/Sanda Schuldmann盤では「客観的に下手な演奏という点では私の800枚のCDの中では屈指です。」と書いたほどいい加減な演奏でしたが、このCDの演奏は当然ながらプロの演奏に相応しいレベルにあり、それなりに楽しめます。原曲のヴァイオリンとピアノの場合は、ヴァイオリンを女性、ピアノを男性に例えられる優しい会話の様な音楽ですが、チェロとピアノの場合は役割逆転、ピアノの甘い語らいを低く包容力のある声のチェロが支えるバランスになります。演奏の方も音程による役割逆転を意識してか、本来はヴァイオリンが「歌う」パートを伴奏である筈のピアノが「歌い」、チェロが主旋律をもって伴奏に回るような部分も散見されます。従って、ここで聴ける作品22はひとつの新しい作品の様な存在感があります。
ただ少し残念なのは、チェロの音色があまり色っぽくない事と、調性を原曲のままとしているのでチェロの音域を超えてしまい、頻繁にオクターブ移行が行われる事です。「これから盛り上がるぞ!」という所で逆に落ちてしまったり、「さあゆっくりと着地だ」と思うところで離陸してしまったりと、原曲を知る人には違和感の出る編曲になってしまっています。私個人はオクターブ移行しなくて済むように、移調して演奏されるチェロによる作品22を聴いてみたいものです。
2曲目のLuise Adolpha le Beauは1850年にドイツに生まれた人で、クララ同様に当時では成功した数少ない女性ピアニストであり、作曲家としての地位も得ていたそうです。また短期間ですがクララの生徒でもあったようです。クララやブラームスが大活躍していた時代に、同じドイツに生きた彼女によるチェロソナタ・作品17は、ドイツロマン派が大好きな私にとって、最初のメロディが奏でられた瞬間に「うわぁ〜、いいなぁ〜」と思えるほどの名曲です。時に優しく時に力強いメロディ、豊かなロマンス、安定感ある音楽構造....ブラームスかベートーベンの雄大さとクララの繊細さを合わせ持ったかの様な音楽です。
第1楽章のAllegro moltoはとても雄大かつ推進力に溢れた楽想により、チェロとピアノが高らかに歓びと希望を歌います。その響きはブラームスのヴァイオリンソナタ第3番をチェロ版にしたかのような雰囲気ですが、確認の為にブラームスを聴き直したら、逆にブラームスが陳腐に聞こえてしまいました。
第2楽章のandante tranquilloはゆったりとした、悲しみと沈思に満ちた曲で、春の光が木漏れ日となってきらきらと射込む湖のほとりで、女性が物思いにふけるような情景でしょうか。中間部の長調に転調して、キラキラと輝く光の中をたゆたう春風を表現したような部分は、そのままドラマのエンディングに使えそうな、ブラームスとドビュッシーの良さを重ねたような印象的な音楽です。
第3楽章のAllegro vivaceは歓びと希望に満ちた軽快な音楽です。
全体を通じてチェロとピアノの掛け合いがとても素敵で、構成力も力強さも繊細さもある、作曲家が女性である言い訳など全く不要な曲です。もし作曲家名を告げずにこの曲を多くのクラシック通に聴かせたら、どの様な印象を持ち、かつ誰の曲と思うでしょうね。とても興味あります。
1882年にハンブルグ国際作曲コンクールでLuiseはチェロソナタで見事優勝しましたが、女性の作曲能力など端から信じていなかった当時の音楽界は、優勝証書のLuiseの名前に英語のMr.に当たる「Herr」を付けてしまい、本人が女性である事に気付くと慌ててMissに当たる「Fraulein」に書き直したという経緯があります。その時の優勝曲がこの曲であるとCDライナーノーツには書いてありますが、別の海外資料では優勝曲の作品番号は24になっているので、どちらが本当かは分りません。しかしこの経緯は、Luiseの曲の素晴らしさを物語っているでしょう。この曲と作曲家が現代において何故忘れられているのか、全くもって不思議です。
3曲目のNadia Boulangerは1887年フランス生まれ。女性作曲家として著名なLili
Boulangerのお姉さんです。Nadia自身について語る資料は持っていませんが、Liliの資料の中にNadiaが登場します。それによれば彼女はフォーレなどに作曲を学び、ローマ大賞の第2位を受賞するほどの才能に溢れていましたが、妹のLiliの作曲の才能を見て(Liliはローマ大賞第1位受賞)作曲の筆を置いたそうです。その後は教師に転向し、コープランドやバーンスタインなど現代に著名な数多くの音楽家を育て上げた今世紀最高の作曲教師として名を残しました。またロンドン交響楽団やボストン交響楽団の指揮者も歴任し、Liliの死後、妹の作品を広める為に積極的にレパートリーに加えたそうです。Liliの生前は病弱な妹に献身的に尽したともあり、LiliとNadiaの関係をローベルトとクララの関係に重ね合わせる事が出来るかも知れません。
チェロとピアノの為の三つの作品は、20世紀初頭のフランス音楽そのもので、フォーレの音楽に相通じる、音符が空中を漂うような不思議な美しさを持った曲です。フォーレ好きの方なら結構楽しめると思います。
4曲目のJohanna Senfterは1879年ドイツ生まれ。フランクフルト音楽院で学んだ後でマックス・レーガーに師事した作曲家で、オルガン作品を中心に残している人です。
チェロとピアノの為のソナタ・作品10は、ロマン派の19世紀から20世紀に移り行く狭間に立つ曲らしく、ブラームスやシューマンの曲のような美しい和音とメロディを土台にしつつも、現代曲的な不協和音が入り交じる音楽です。
チェリストのFelictias Stephanはドイツ生まれ、ピアニストのElena Margolina-Haitはウクライナ生まれで、現在はどちらもドイツで活躍しています。CDデビューがそれぞれ1995年と1996年ですから、まだ若い音楽家ですね。
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