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Clara SCHUMANN Complete Songs
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Dorothea Craxton (Sop), Hedayet Djeddikar (Fortepiano)
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レーベル;NAXOS |
入手性;輸入現行盤 |
CD番号;8.570747 |
お気に入り度;★★★★★ |
録音年月日;2007年7月23-28日 録音;DDD |
資料的貴重度;★★★★★ |
収録時間;70分17秒 |
音質 ;★★★★ |
収録曲
F.リュッケルトの「恋の春」からの12の歌・作品12(クララ作曲分の3曲。残り9曲はローベルトの作品)
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彼はやってきた
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美しさゆえに愛するのなら
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なぜ他の人に尋ねるのか
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おやすみ
※CDライナーノーツには作品12の一曲として記載されているが、誤り。作曲は同時だが含まれなかった。
なお解説書本文中には正しく「おやすみは出版されなかった」と書かれている。
インターネット上の曲目情報でも訂正されている。
6つの歌・作品13
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私は暗い夢の中で立っていた
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彼らは愛し合っていた
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愛の魔法
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月は静かに昇った
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私はあなたの瞳に
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無言のはすの花
ヘルマン・ロレットの「ユクンデ」からの6つの歌 ・作品23
- 花よどうして泣くの
- ある明るい朝に
- ひそやかな語らい
- みどりの丘の上で
- それはある日のこと
- おお、歓喜よ
単独曲
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宵の星
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海辺にて
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彼女の肖像(作品13、第1曲「私は暗い夢の中で立っていた」の初期バージョン)
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民衆歌
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彼らは愛し合っていた(作品13、第2曲「彼らは愛し合っていた」の初期バージョン)
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ローレライ
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分かれの辛さよ
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我が星
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分かれの時
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すみれ
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さすらい人
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製材所のさすらい人
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ワルツ
コメント
2009年最初(2009年1月)に発売されたクララのCDは、クララ愛好家にとってこの上も無いプレゼントであり宝物でした。美しきクララの肖像が用いられた「ドイツ100マルク札」の裏面に印刷されている「あの」クララのピアノで伴奏された、異稿2曲を含む完全なるクララの歌曲全集です。
まずは、その「クララのピアノ」について説明しましょう。
ドイツ100マルク札の裏面に印刷されているピアノがこのCD録音で使用されたものです。100マルク札はかつて世界中に流通した代表的紙幣ですが、何故かペダルを4本描くというミスを犯しています。実際には下の写真にあるように2本です。
このピアノは、Hammerflügel von Matthäus Andreas Stein (1776-1842), Wien, um 1825。製造番号は513番。クララの父フリードリッヒ・ヴィークが代わりに書いていた1828年3月4日のクララの日記に「今日、ウィーンのスタイン氏にオーダーした6オクターブのグランドピアノを受け取った」とあります。同年の10月20日に9才のクララは初のリサイタルをライプツィヒ・ゲヴァントハウスで開催しコンサートピアニストとしてデビューを果たしましたが、その時にこのピアノが使用されました。その後ピアノコレクターの手に渡ったこのピアノを1911年にツヴァイカウのローベルト・シューマンハウスが入手し、更に1995〜96年にローベルト・A・ブラウンによって演奏可能な状態にフルレストアされて現在に至っています。
ローベルト・シューマンハウスの象徴的なコレクションとして、ガイドブックの表紙にこのピアノの写真が載っています。このCDの録音もローベルト・シューマンハウスで行われていますので、上の写真にある部屋が録音場所だと思われます。
1995-96年のレストア後に、このピアノを使った録音が幾つか行われ、私は上の2枚を所有しています。左はローベルト・シューマンの「子供のためのアルバム・作品68」を演奏したCDで、ピアニストはChristoph Hammer。1998年8月24日にツヴァイカウのローベルト・シューマンハウスで録音されています。(Ars Produktion FCD 368 395)。
右はE.T.A.ホフマンのピアノソナタと、クララの三つのロマンス・作品11、及びローベルトの有名な「クライスレリアーナ」の作曲の源になった、ホフマンの評論集「クライスレリアーナ」からの朗読を収めたCDです。ピアニストはFriedhelm Eberleで、1999年1月15-17日にやはりツヴァイカウのローベルト・シューマンハウスにて録音されています(querstand VKJK 9922)。こちらのCDはCD解説・ピアノ独奏曲編に掲載しています。
レストアが余程完璧であったのか、このクララのピアノの響きは180年前のピアノとは思えないほどクリアで、和音や倍音のハーモニーも美しく、現代ピアノと比較してもさほどの遜色はありません。それでいて現代ピアノには無い素朴さが同居しています。
さて、前置きが長くなりましたが、このCDの内容に話を進めましょう。
ソプラノのドロテア・クラクストンはドイツ・ケルンにある州立音楽大学を卒業したとありますので、恐らくドイツ人でしょう。バッハを中心としたレパートリーを持っているようです。ピアニストのヒダィエット・ジェディカーはドイツ・バーゼルに生まれ、フランクフルト音楽大学を卒業し、声楽の伴奏ピアニストとして活躍しているそうです。現在はフランクフルト音楽大学で教鞭も執っています。
明快な存在感を放つこの二人の演奏を語る上で、さほど多くの言葉は必要ありません。
このCDに聴かれるクララのピアノの音色はクリアながらとても素朴で、その音色に合わせるようにジェディカーはテンポを遅めにとって柔らかく演奏しています。クラクストンの声は透明感のある美しい声ですが、クララのピアノに合わせたのか、無暗に声を伸ばしたりビブラートをつけたりせず、あたかもフォルテピアノの様な、ひとつひとつのフレーズの余韻を抑えた清楚で素朴な歌いかたをしています。
録音も専用スタジオやホールではなく、シューマンハウスの展示室で行われたのを感じさせるような、間接音の比較的少ない、クリアながら質素、素朴、アットホームな音質になっています。
このピアノ、ソプラノ、録音の三つの要素が見事に調和した音楽は、他ではちょっと得難いほどの、柔らかく、優しく、素朴な世界を作り上げています。クララの歌曲ではリファレンスにしているラン・ラオ盤の、数あるスタインウェイの中でも飛び抜けてクリスタルな音色のピアノに乗せた、輝くばかりの透明感と色っぽさを放つラン・ラオの歌唱の世界とは対極にありますが、心に届く感動は双璧をなしています。敢えて小さな弱点を挙げるとすれば、フォルテの部分でクラクストンが声量の限界に迫るような歌いかたをするので、声が透明感や柔らかさをやや失う事があることぐらいです。
ローベルトやヨハネスがが聴いたクララの歌曲は、ラン・ラオ盤の様な現代スタインウェイではなくて、ここに聴かれる様なピアノで伴奏されていた筈なので、二人が愛したクララの音楽の本来の姿がここにある、と思うと感動もひとしおで、このCDを入手してからは暫くこのCDばかり、10回以上繰り返し聴き通してしまいました。
手持のクララの歌曲のCDをチェックしましたが、2009年時点でフォルテピアノ伴奏による歌曲はこのCDだけです。そのピアノがクララがピアニストデビューを果たした時のM.A.Stein, Wien, um 1825というだけでも資料的に貴重ですが、異稿2曲を含む全29曲の完全なるクララの歌曲全集(他にスーザン・グリットン盤があるのみ)ですから、その価値は一層高まります。ナクソス・レーベルなので輸入盤の中でも入手は最も容易で、価格も1000円前後ですから、文句無くお勧め盤です。
ナクソスさんは、相変わらず良い仕事をされます。
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