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JOSEPH JOACHIM
CLARA SCHUMANN
JOHANNES BRAHMS
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Katharina Schumitz (Vn), Oliver Triendl (Pf)
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レーベル;telos music records |
入手性;海外現行盤 |
CD番号;TLS 064 |
お気に入り度;★★★★ |
録音年月日;2002年11月22-24日, 2003年3月21日 録音;DDD |
資料的貴重度;★★★ |
収録時間;52分35秒 |
音質 ;★★★★ |
収録曲
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ヨーゼフ・ヨアヒム:ヴァイオリンとピアノの為の三つの小品・作品2
(1) ロマンス
(2) 幻想的小品
(3) 春の幻想曲
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クララ・シューマン:ヴァイオリンとピアノの為の3つのロマンス・作品22
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ヨーゼフ・ヨアヒム:ロマンス・ハ長調
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ヨハネス・ブラームス:ヴァイオリンソナタ第三番・作品108
コメント
なによりもカップリングが素敵なCDで、演奏も秀逸です。
クララの曲とカップリングされる事の多い作曲家の第1位は勿論夫のローベルト・シューマンで、第2位はヨハネス・ブラームスだと思います。従ってこの三人の曲をカップリングしたCDも幾つか存在しますが、そこから夫のローベルトを外して、代わりにヨーゼフ・ヨアヒムの曲を加えた点がこのCDの最大の特徴です。
ヨーゼフ・ヨアヒム(1831-1907)は19世紀後半に活躍した天才ヴァイオリニストで、シューマン夫妻、ブラームスとの親交が厚く、彼らのヴァイオリン曲をコンサートで数多く演奏しています。またローベルトのヴァイオリン曲の殆ど、そしてクララのヴァイオリンとピアノの為の3つのロマンス・作品22の作曲のきっかけもヨアヒムで、彼が1853年5月、8月、9月、10月と立て続けにシューマン夫妻を訪問した際にシューマン家がヴァイオリンフィーバーになり、この家に集う人達(夫妻、ブラームス、ディートリッヒ)はこぞってヴァイオリン曲を作曲しました。この辺りの詳しいいきさつは、クララの作品22の解説を御覧下さい。
クララ、ブラームス、ヨアヒムはローベルトの亡骸に最初に会った人物でもあります。1856年7月29日午後4時にローベルトは息を引取りましたが、この時クララとブラームスはヨアヒムを駅に迎えに出ていました。その30分後にクララはローベルトの亡骸と対面しましたので、その脇にはブラームスとヨアヒムが居た事になります。この事実からもこの三人のお互いの友情が如何に深く、またこの三人が共通にローベルトを如何に慕い尊敬していたかを伺い知る事が出来ます。そんな三人の曲だけでCD一枚にしたものは、今のところこのCDだけです。
ヴァイオリニストのキャサリーナ・シュミッツは1971年ドイツ・サクソニー州のリヒテンシュタインで生まれ、現在はミュンヘン交響楽団でヴァイオリン奏者をしています。用いているヴァイオリンは1781年アントニオ・グラニャーニ(Antonio
Gragnani)で、彼女の手により繊細な高音と表情豊かな弱音を聴かせてくれます。消え入るような弱音を弾く時の弓の使い方は本当に上手いなぁ...と思わせてくれます。
ピアニストのオリバー・トリエンドルは1970年ドイツ・バイエルン州マラーズドルフで生まれた、やはり若い芸術家でゲルハルト・オピッツなどに師事しています。彼はこのCDの中でヴァイオリンに寄り添う綺麗な音色をスタインウェインから紡ぎだしてくれています。
冒頭を飾るのはヨアヒムの曲ですが、ブラームスの曲の編曲ものを除けばヨアヒムの曲を耳にした事にある方は少ないでしょう。私もヨアヒムの曲がまとまって収録されているCDがあれば買うようにはしていますが、4枚ほどしか持っていません。彼は協奏曲、ソナタ、小品等のヴァイオリン曲や管弦楽曲を中心に、どれもシューマンやブラームスと同時代の天才である事が一聴して分る素敵な曲を残しています。
第1曲の三つの小品・作品2ですが、個々の曲のタイトルを確認せずに聴いた時の私の印象は「ロマンスとファンタジアだなぁ」でした。そして実際に曲名を確認したら上記にある通り、ロマンスと幻想曲でした。最初の曲のロマンスは非常に繊細な長調の曲で、シュミッツのこれまた繊細なヴァイオリンの音色によって極めてチャーミングな音楽になっています。この曲はヴァイオリニストの隠れたアンコールレパートリーになっているのか、ネットで検索するとヨアヒムからはこの曲だけをピックアップしたヴァイオリン小曲集のCDが複数見つかります。次の幻想的小品は、最初のロマンスと連続して聴いても違和感の無い、ある意味で一体化されたような曲です。短調の曲ですが高音域の弱音がポイントになるような、センチメンタルでロマンティックな曲になっています。最後の春の幻想曲ですが、第2曲からは一転、春の柔らかな光の中の雰囲気に包まれて、静かな、そして時に情熱的な音楽が奏でられます。ピアノもヴァイオリンも最高音域が分段に用いられて、クリスタルな美しさと繊細さに溢れた曲になっています。この曲におけるシュミッツのヴァイオリンの響かせ方は、豊かなビブラートと丁寧な弓運びで本当に味わい深いです。
クララのヴァイオリンとピアノの為の三つのロマンス・作品22は、ややゆったりとしたテンポの中で、細部にまで心の行き届いた弓遣いによる美しい音楽になっています。柔らかいタッチのピアノの上に乗る、多めのビブラートとニュアンスに富んだ弱音のヴァイオリン。そんな第1曲、第2曲を聴いていると二人の演奏者のクララのロマンスに対する愛を感じて、こちらも幸福な気分になってきます。第3曲はテンポの速い曲で、このCDでもテンポ速く演奏されますが、決して荒々しくなることはなく、ひとつの音符も蔑ろにされていません。それでもこの曲のリファレンスであるゲリウストリオの演奏ほどに妖艶ではないのは、ヴァイオリンの音色の違いとしか言いようがありません。このCDのバイオリンの音色も美しいのですが、あちらはアントニオ・ストラディバリ最盛期の1711年製ストラディバリウス、比較する相手が悪いのかも知れません。
続くヨアヒムのロマンス・ハ長調も珍しい曲ですが、二つ前に紹介したLisa
Marie Landgraf (Vn), Tobias Koch (Pf) 盤で聴いていたので耳に馴染みがありました。明るくテンポの良いロマンスですが、シュミッツの美しい弱音にハッとさせられて引き込まれる、Landgraf盤よりも妖艶で表情豊かな演奏です。
ヨアヒムとクララのロマンティックな曲で過ごした後は、ブラームスの骨太な曲で締め括り、CD全体を引き締める選曲になっています。このブラームスのヴァイオリンソナタ第三番ですが、緻密な構成力と力強さを要求するので、ヴァイオリンの音色があまり魅力的に響かず損をしていると思いました。このバイオリンは弱音が美しい代わりに強奏ではちょっとヒステリックに響くので、ヨアヒムの繊細な曲に続いて聴くと「ちょっと」と思ってしまいます。しかし演奏者二人の心配りは細部にまで行き届いており、曲の進行と共に耳が慣れてくると、いつの間にかブラームスの曲の魅力の中に自分が居る事に気づかされます。
総じて良いCDです。
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