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ROMANCE
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岡田光樹(Vn)、山根貴志(Pf)
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レーベル;ファウエム・ミュージック・コーポレーション |
入手性;国内現行盤 |
CD番号;FMC 5046 |
お気に入り度;★★★★★ |
録音年月日;2004年8月26-27日 録音;DDD |
資料的貴重度;★★ |
収録時間;53分31秒 |
音質 ;★★★★★ |
収録曲
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クララ・シューマン:ヴァイオリンとピアノの為の三つのロマンス・作品22
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ヨーゼフ・ヨアヒム:ロマンス・作品2-1
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マックス・レーガー:ロマンス・ト長調
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ガブリエル・フォーレ:ロマンス・作品28
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アンリ・ヴェータン:ロマンス・作品40-1
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フリッツ・クライスラー:ロマンス・作品4
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ヨハン・スヴェンセン:ロマンス・作品26
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ジャン・シベリウス:ロマンス・作品2a
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ジャン・シベリウス:ロマンス・作品78-2
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セルゲイ・ラフマニノフ:ロマンス・作品6-1
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ドミートリ・ショスタコーヴィッチ:ロマンス
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ローベルト・シューマン:ロマンス・作品94-2
コメント
クララのCDの新譜はamazonの検索やCDショップ・カデンツァの新譜情報でチェックしていますが、このチェック網から漏れて、別件でヨアヒムの事をネットで調べていて発見したCDです。国内マイナーレーベルである事に加えて、amazon.co.jpのこのCDのページには収録曲の解説が無く、このような素敵なクララのCDがあるとは知りませんでした。もっともレコード芸術誌には掲載されたそうなので、御存知の方も居られるでしょう。
クララの室内楽の日本人演奏家によるCDは、永らくクララ・ヴィーク・トリオ(チェロがマツダルミコさん)によるクララのピアノ三重奏曲と、森下幸路さん/山田武彦さんによるヴァイオリンとピアノの為の三つのロマンスの2枚だけでしたが、2005年末に磯部周平さん(クラリネット)他による「インテルメッツォ」と、岡田光樹さん/山根貴志さんの「ロマンス」が相次いで発売されました。どちらもクララのヴァイオリンとピアノの為の三つのロマンス・作品22を収録しています。今回の解説は後者の岡田さん/山根さんのCDで、クララの作品22を皮切りに、11人の作曲家のヴァイオリンとピアノによる「ロマンス」という名の曲を収録しています。CDの最後を締めくくるのはクララの夫、ローベルトのロマンスです。
ディスクをCDプレーヤーに入れてスイッチを押す。そして流れてくるクララのヴァイオリンとピアノの為の三つのロマンス・作品22-1のヴァイオリンの音に思わず耳が固まりました。なんとまぁ、柔らかく、そしてしっとりとした演奏なのでしょう。何百回と聴いてきたクララのこの曲が今また新しい姿を見せてくれました。
岡田さんはビブラートを多用せずに、弓の運び方によって音の瞬間瞬間にとても豊かな、デリケートなニュアンスを含ませて演奏されています。ピアノもヴァイオリンに寄り添うように柔らかく演奏されています。録音も間接音を豊かに取り込んだ拡がり感のあるもので、ロマンスをゆったりと楽しむのに相応しい仕上がりになっています。
第1曲はとても柔らかく、ゆったりと、そして最大限のニュアンスを込めて演奏されて、α波満開の心地よさです。第2曲、第3曲はややテンポの速くなる曲ですが、どんなに速いパート、強奏する場所でも荒々しさとは無縁で、一つ一つの音符が表情豊かに聴衆に語りかけてきます。まことに不遜な「たとえ」をすれば、もしクラリスト1号がヴァイオリニストで、どの様な表現も自在にこなせるヨアヒム並の演奏技術があれば、クララへの愛を込めてまさにこう弾くであろうと思わせる音楽です(私はヴァイオリンは弾けません。念の為(^^;)。こんなに美しい作品22に巡り合ったのは初めてかも知れません。
次はヨアヒムのロマンス・作品2-1です。録音頻度のとても低い曲ですが、偶然のなせる業か私が最近入手したCDの中に2枚この曲を含むものがありまして、ここ数ヶ月で何度も聴く事が出来ました。一つ前の解説で紹介したKatharina
Schumitz/Oliver Triendl盤の演奏も素敵でしたが、こちらはそれ以上の豊かなニュアンスに富み、柔らかい中にしっかりとした芯のある演奏で、それでいて強奏時にも決して荒々しくなる事も無く、本当に美しいロマンスになっています。
この後に続く曲も一つ一つ感想をメモしたのですが、どれも美しくて形容詞が足りなくなりましたので総括的に書いておきます。性格の異なる様々な作曲家の曲を弾いていますが、どの曲も共通して緩徐パートでは本当に柔らかく、しっとりと。ドラマティックに急速に演奏するパートでも決して荒々しくならない、ニュアンスに富んだ演奏になっています。
最後のローベルト・シューマンのロマンス。CDには作品番号の記述が無くクライスラー編曲とありましたので、どのロマンスか楽しみでしたが、三つのロマンス・作品94の第2曲でした。普段はチェロやオーボエで演奏されるこの曲ですが、チェロにも負けないぐらいの芳純な雰囲気をヴァイオリンで表現されています。但し冒頭のクララの曲にあるような、どこまでも優しい、しっとりとした演奏に対して、こちらは力強さと芯の強さをより強調した物になっています。北欧やロシアの厳しさを併せ持った曲から続けて演奏される、プログラムの流れを考慮した演奏スタイルなのかも知れません。もしクララの曲に続けて演奏されたら少し違う表現になっていたと思います。
さてこのCDを聴いている時に欧州旅行をしている気分になりましたので、その選曲にも触れておきましょう。クララに始まり、ローベルトに終わるプログラムですが、その間に挟まれた作曲家の母国が地理的にある程度連続するように配置されています。
ドイツ(クララ、ヨアヒム、レーガー)→フランス(フォーレ)→ベルギー(ヴェータン)→オーストリー(クライスラー)→ノルウェー(スヴェンセン)→フィンランド(シベリウス)→ロシア(ラフマニノフ、ショスタコーヴィッチ)→ドイツ(ローベルト)
これによって異なる性格の作曲家を渡り歩くプログラムでありながら、極端な音楽の飛躍の無い、連続性を感じさせるコンサートになっています。
このCDに太鼓判を押す前に、過去に太鼓判を押した二枚のCDと聴き比べてみました。クララの作品22のヴァイオリンによる演奏では、美しさと可憐さにおいて現在まで並ぶものなく孤高の位置にいるゲリウストリオ盤と比べると、驚く事にこのCDは負けていないです。ヴァイオリンの音色だけをとればゲリウスの弾く1711年製ストラディヴァリウスはやはり至宝と言えます。しかしこのCDのヴァイオリンの音色はもう一つの太鼓判を押したLuca
/ Connelly盤の1800年代前半製ニコラウス・サヴィッキに現代ヴァイオリンの豊かな音量と響きを加えた物に近いです。Luca
/ Connelly盤では「ニコラウス・サヴィッキのヴァイオリンは、前述のように響きはストラディバリほど豊かでは無いですし、ヴァイオリニストはビブラートを抑え目にして演奏していますが、しかし楽器の音色そのものがチャーミングなので、余韻やビブラートが少なくても十分に楽しめます」と評しましたが、そこに豊かな音量と響きが加わったこのCDのヴァイオリンの音は一層美しく、ヴァイオリニストのニュアンスに富んだ演奏が加わって、ゲリウストリオの演奏の美しさと双璧をなすものになっています。
ヴァイオリニストの岡田光樹さんは1972年生まれなので、まだ若い芸術家ですね。ピアニストの山根貴志さんの生年は分りませんでしたが、やはり若い方だと思います。お二人ともに現在は沖縄県立芸術大学音楽楽部で、それぞれ講師と非常勤伴奏員をされています。
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